インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
アシスタント BJ

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本も書いてます



 

■放送局の送信塔と白血病
 AMラジオ放送局の送信塔の周辺では、他の地域よりも白血病死亡率が70%高いことを突きとめたと『職業・環境医学の国際アーカイブ』誌に韓国の研究チームが発表しました。
 ただし、今回の研究は多人数を対象にした疫学的調査の結果であり、ガンと送信施設との直接の関連性は証明されていませんし、ラジオの電波でがんが発生するという研究報告もありませんので今後のさらなる検討が必要です。

■ついに太陽系以外の惑星系の写真撮影に成功か
>> プレスリリース(英語) 
 ヨーロッパ南天天文台はうみへび座TWアソシエーションにある2M1207というM型の褐色矮星にある、木星の5倍程度の質量の天体を直接観測によって発見したことを発表しました。
 これまで、太陽系以外の惑星系は惑星の公転の影響による中心生の「ふらつき」の観測や、もうすぐ惑星慶賀できるかもしれない「ちりの雲」の観測から間接的にその存在が確信されていましたが、今後この天体に関する軌道などが確定されれば、世界で初めて太陽系以外の惑星系が写真撮影されたことになります。

■カーボンナノチューブの新しい展開
 Nature 2004年9月16日号によるとカーボンナノチューブで世界でもっとも小さいギターの弦(のようなもの)が作成されたそうです。この研究は、カーボンナノチューブの弦を電気的に振動させそれを検出することに成功したというもので、この技術を応用すると微細な力をカーボンナノチューブの振動として検出するあたらしいデバイスの開発が可能になるとのことです。

Chapter-45 始祖鳥は空を飛べたのか?
2004年9月18日

今週の放送を聴くダウンロードする次回の放送

お詫び
 今回の放送で翼竜の例として「トリケラトプス」という名前を出しましたが、「トリケラトプス」は

でした。
実は

を言いたかったのです。「プテラノドン」が正しい名称でした。ここで訂正させて頂きます。ご指摘頂いた生放送リスナーの皆様、ありがとうございました。

始祖鳥
・1861年に最初の化石が発掘された
・大きさは鳩と同じくらい
・羽毛のある翼
・歯、骨のあるしっぽ
・1億4700万年前に生息

鳥の特徴とは虫類の特徴を併せ持つ

鳥の進化の過程を説明する生き物

 中国での多くの鳥類化石の発見がきっかけで羽毛のある恐竜から鳥類への進化が明らかになりました。しかし、恐竜と鳥類の境目付近の化石は発見されておらず、始祖鳥が発見されて150年近くが経過した今でも始祖鳥が最古の鳥の化石である考えられています。

 始祖鳥は現在の鳥の祖先ではありません。現在の鳥類と始祖鳥には恐竜から進化した共通の祖先がいて、そこから方や現在の鳥類に、方や始祖鳥に進化した後に始祖鳥に進化したグループは絶滅してしまい、鳥類に進化したグループが現在まで進化を続けているということになります。この鳥類と始祖鳥の分岐点となった生き物についてはまだよくわかっていません。

 これまでの始祖鳥の飛行能力に関する研究は主として骨格や羽毛を調べる空力学的研究が中心でしたが、イギリスの科学雑誌Natureの8月5日号に始祖鳥の脳の構造を調べることによってこの生き物が空を飛んでいたかどうかを推測したロンドンの自然史博物館の研究チームの研究成果が発表されました。

 1861年に発見された始祖鳥の頭の骨を高解像度X線CTにかけ、脳の入っていた空洞の形や平衡感覚をつかさどる内耳の構造を調べました。これは、X線CTで頭の骨のスライスの写真を撮影し、この画像をコンピューター上で三次元に復元するという手法で行われました。

 始祖鳥の脳は原始的ではあるけれど現在の鳥類に非常に似ていることがわかりました。大きさについては、身体の大きさに対する脳の大きさの比率は現在の爬虫類よりも大きく、鳥類よりは小さいという結果でした。また、運動をつかさどる領域が大きい点も現在の鳥類と共通していました。平衡感覚をつかさどる内耳の構造は非常に繊細で現在の爬虫類よりも鳥類に非常に近いものでした。また、視覚も発達していたと思われることから、目で見たものに俊敏に反応して行動していたことが推測されます。

 さて、これらの結果から始祖鳥は構造的には非常に現在の鳥類に近いことがわかりましたが、始祖鳥が空を飛んでいたことを確実に示すために、研究者らは絶滅は虫類である翼竜について同様のCTを用いた研究を行いました。その結果、飛行していたことが明らかである翼竜の脳の構造は始祖鳥の脳の構造とそっくりでした。これらの情報を総合して考えると始祖鳥の体の構造は空を飛ぶのに非常に適した形に進化が完了していたことがわかります。

 反論としては、この時代の捕食方恐竜の一部はみな鳥に似た脳の構造を持っていたが明らかに飛べない種類もいたし、現在においてもダチョウに代表されるように鳥の形態を取っていたも飛行できない鳥類はたくさんいるので、始祖鳥の資質は飛行するには十分だったかもしれないが実際に空を飛んでいたかどうかとは別の問題という意見を述べている研究チームもあることを記憶にとどめておかなければなりません。

 しかし、少なくとも始祖鳥の脳は陸上の爬虫類から現在の鳥類への正しい進化の過程の途中、しかも現在の鳥類に非常に近い段階の途中にあることは間違いなく、始祖鳥は空を飛べたと多くの研究者たちは近年判断しています。

 また、飛行形態については数年前までは「始祖鳥は木の上に爪でよじ登ってそこから滑空する」といった説もありました。これは始祖鳥の骨格には竜骨突起とよばれる羽を振り下ろして揚力を得るために必須な骨格形態がないことがその根拠でしたが、その後1970年代の研究成果によって始祖鳥は自分の体を持ち上げるに十分なはばたきをするための筋肉を持っていたことが明らかになってきました。また、コウモリは竜骨突起を持っていないにもかかわらず飛行が可能であることと併せて、現在中心となっている説は地面効果で飛行していたというものに変わっています。地面効果というのは白鳥が水面すれすれを滑空しているときの飛行形態のことで、この方法で飛行すれば雀や鳩のように高度を保って飛行する場合に比べて消費するエネルギーが2/3ですむと言われています。

 ただし、竜骨突起を持っていないため地上からいきなり飛び立つことは出来なかったと考えられており、始祖鳥は強い脚力の長い足を持っていましたのでそれを使って時速7キロメートル程度で滑走した後に飛び立ったのではないかと考えられています。また、着陸に関しても羽を振り下ろす竜骨突起がないため、現在の鳥のように羽ばたきで空中静止に近い状態でいったん止まってストンと降りるということは出来なかったと思われ、着陸の際も地上をばたばたと走って着陸したものと思われます。

 このように、近年始祖鳥の飛行に関する研究はX線CTを化石に適用することによってより多くの情報を得ながら著しい進展を遂げており、今後は、始祖鳥よりもより原始的なは虫類に近い生き物の発見が期待されています。

参考文献
Nature 1999年5月6日号
Nature 2004年8月5日号

補足:放送終了後の最新情報

 始祖鳥とは別の鳥の祖先とも考えられている恐竜「ミクロラプトル・グイ」について化石が発見された中国の研究チームが新たな飛行形態の発表を行いました。
 それによると、この恐竜は4本の脚すべてに翼のような羽毛を持ち、後脚の翼と尾を一体にすることで、高い揚力を得ていたのではないかと思われるとのことです。
 この恐竜は2004年1月にイギリスの科学雑誌 Nature で初めて紹介されたもので、白亜紀前期の約1億2500万年前の地層から見つかりました。全長約77センチと小型の恐竜です。