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Chapter-56 ドクターイエローのテクノロジー
2005年2月19日

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 ドクターイエロー(新幹線電気軌道総合試験車)というのは新幹線の線路や架線の点検を行う黄色い車体の新幹線電車のことです。この電車は約10日に一度東京と博多の間を往復し、走行しながら地上設備の状態を効率よく把握し、安全かつ安定した新幹線の運行を守る働きをします。

 ドクターイエローが運行を開始したのは新幹線が開業した1964年です。初代ドクターイエローは新幹線開業のための様々な試験を実施した試作車両を改造したもので現在のドクターイエローと違って電気系統の点検のみを行っていました。線路の点検は別の車両が夜間に時速160キロで走行しながら行っていました。

 電気と線路を別々の列車で点検することは非常に効率が悪いことから、昼間、営業列車の合間に線路と電気の両方を同時に検査することができる車両の開発が計画され、新幹線の開業から10年が経過した1974年に当時のひかり号の走行速度と同じ時速210キロで走行しながら電気系統と線路の両方を同時の検査することのできる新型新幹線電気軌道総合試験車がデビューしました。

 それからさらに25年が経過し、「のぞみ」が時速270キロで運行を開始すると時速210キロしかでない試験車は「のぞみ」の運行に影響を与えるようになりました。そこで1998年に「のぞみ」と同じ700系と呼ばれる車両をベースに時速270キロで検査をすることができる車両の開発に着手し、2001年に完成したのが現在の新幹線電気軌道総合試験車です。

 この新型ドクターイエローは7両編成で、通常の「のぞみ」が16両であることと比較すると編成が短くなっていますが、これは検査のために必要な設備を十分搭載できる最短の編成と言うことで7両になっています。中間の4号車が線路の点検を行う車両でその前後は電気系統の点検を行う車両となっています。

 大阪よりから東京よりに向かって1号車、2号車の順で一番後ろが7号車です。

 1号車は信号や電源の測定室、2号車はパンタグラフを搭載した電力関係の測定車。3号車は2号車で得た電力関係のデータを処理する部屋やトイレ・洗面所があります。4号車が線路を測定する車両で、モーターの振動がデータに影響を与えることを防ぐためこの車輌だけが走行用のモーターを乗せていない付随車となっています。5号車は測定機器に電源を供給するための電源室があります。6号車は2号車と同じパンタグラフを踏査した電力関係の測定室と会議室があります。もっとも東京よりの7号車は信号系統の測定室と乗務員控え室となっています。

 このドクターイエローは270キロという設備試験車としては世界最高速度で走行しながら電源と線路を同時に測定できる世界で最も優れた試験車輌です。

 線路の点検はレールの側面にレーザービームを照射し、その反射する光を測定してレールの左右のずれを測定します。このレーザーは1秒間に1000回照射し、毎秒1000回のレールのぶれを測定することが可能です。

 新幹線に電源を供給する架線はパンタグラフによって常にこすられているため摩耗が激しい設備ですが、ドクターイエローは線路と同じようにレーザー光をあてて摩耗やその他の異常を調べます。架線は毎秒1500回のレーザー照射行いその反射光を画像化することによって摩耗の程度を測定します。時速270キロで走行しながら5センチ間隔で架線の映像を得ることができます。

 また、編成の両端の先頭車には高性能なカメラと照明装置が装備され、線路の状態を映像として記録・解析することができます。

 また、この先頭車には列車無線設備測定装置が搭載されています。列車無線は元々地上の管制室と列車乗務員とが連絡を取るためのものですが、現在に新幹線ではこの設備を利用して車内電話や車内にテロップとして流れている天気予報やニュースなどの情報の取得にも使用されています。こちらも270キロで走行しながら信号のレベルや雑音のレベル、周波数のずれ、通話状態などを測定します。また、検査中に得たデータに異常が発見された際も列車無線を使用して直ちに司令室に伝えられ後続の新幹線の運行に反映されます。

 ドクターイエローで得られたすべてのデータは光磁気ディスクに保存され、複製された後に必要な箇所に配布されそれずれの担当箇所についてデータの検討と保全工事が行われます。

 このように「のぞみ」と同じ時速270キロで走行しながら新幹線の安全な運行に必要なデータをすべて同時に採取する世界で最も優れた試験車輌でドクターイエローの存在なしには営業運転中の死亡事故ゼロという世界に類のない快挙を成し遂げる事はできなかったと言っても過言ではないと思われます。

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