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2009年7月18日
Chapter-248 サリドマイドの生化学
サリドマイドは当時西ドイツのグリュネンタール社が1957年に催眠剤として発売した薬です。効果が高く寝覚めもよくラットやマウスに大量に飲ませても異常がほとんど無かったことから非常に安全性が高い薬であるとされ、あっという間に普及しましたが、妊婦が妊娠初期にサリドマイドを服用したことが原因で1950年代後半から1960年代前半に手足に異常を持った子供が生まれる事故が相次ぎ、販売は中止され回収されました。
サリドマイドによる手足の未発達の原因は、サリドマイドを服用した後に体内で形成されるサリドマイド加水分解物が持つ血管新生阻害という作用であることがニワトリを使った実験でわかっています。つまり、発生初期にサリドマイド加水分解物を与えると胚は死んでしまい、ある程度成長した段階で与えても重篤な奇形にはならず、ちょうど手足が形成される段階で作用させたときに、手足の形成に必要な血管が正常に形成されず著しい四肢の発達異常が確認されました。
血管新生はガンが増殖・転移する際、旺盛な増殖力・転移力を支えるために必要な大量の酸素や栄養分などを供給するためにもガン組織周辺で活発に行われることも知られています。このことから、抗ガン剤のターゲットの一つとして血管新生阻害が注目され、サリドマイドは1999年に再発しやすかったり、治療効果が出にくかったりする抗治療性多発性骨髄腫に治療効果があることが発見されました。日本では、2008年10月に厚生労働省がサリドマイドは抗多発性骨髄腫剤として効果があることを認め、2009年2月から市販されています。サリドマイドの作用メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、腫瘍細胞へのアポトーシス(細胞自殺)誘導作用、炎症反応抑制作用、ナチュラルキラー細胞やT細胞の生体保護細胞増殖作用が試験管内実験で知られていますので、体内でもこれらの作用が複合的に働いてガン治療に効果を示すものと思われます。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタです。
▼腹七分目でサル長寿
【2009年7月15日日経】
サルを使った20年間にわたる研究でエサのカロリー量を3割減らすと糖尿病やがん、循環器病にかかりにくく、死亡率が3分の1に留まることがわかりました。これまで、線虫やマウスではカロリーを減らすと長生きすることが分かっていましたが、霊長類では元々個体ごとの寿命のばらつきが大きいため、はっきりしたデータはありませんでした。サルでこのような結果が得られたということは人間でもカロリー制限が病気の回避や長寿につながる可能性があります。
▼「きぼう」いよいよ完成へ
【2009年7月15日 日経】
国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の完成に向け、NASAはフロリダ州のケネディ宇宙センターからスペースシャトル「エンデバー」を打ち上げました。エンデバーにはきぼうの最後のパーツである船外実験施設が搭載されています。若田光一さんらがこれをロボットアームで取り付け、きぼうは構想から24年もの年月を費やし、ついに完成しました。若田さんはエンデバーで帰還します。
▼講演会のご案内
2009年7月25日(土曜日)14時〜15時30分
場所:門司図書館2階視聴覚室
テーマ「宇宙人はなぜそのヘンを歩いていないのか」
入場無料
問合せ:北九州市立門司図書館
093-321-6515
▼新刊の紹介
おびおが書いた科学の本が7月24日頃、全国の書店に並びます。今回のテーマも前回に引き続き食品ですが、前回の「食品汚染はなにが危ないのか」では食品添加物などに着目しましたが、今回は食品中の血となり肉となる成分について考えてみました。
太陽の恵みをいっぱいに浴びて育った野菜や果物、丸々と太った家畜から得られる肉類。それらが私たちの体の中で緻密に役割分担しながら、私たち人間を動かしているメカニズムを、ちょっとのぞいてみたいと思います。
タイトル:食べ物はこうして血となり肉となる ~ちょっと意外な体の中の食物動態~
技術評論社 2009年7月24日頃発売 1659円
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