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Chapter-19 「自分は高所恐怖症だ」と自覚している人は多いと思いますが、たとえば高架橋を車を運転して通過することが出来なかったり、エレベーターに乗ることが出来なかったりという重傷な高所恐怖症は医師による治療が必要です。 高所恐怖症の治療方法は高い場所という環境に少しずつ慣れさせることがその基本であり、多くは山などの高所で実施されるためにアメリカでは、毎週1回の治療を4ヶ月続けるとその費用は35万円程度にもなります。 結核治療薬である「D-サイクロセリン」は、結核菌の細胞壁を合成する作用を阻害する治療薬ですが、高所恐怖症治療の前にこのD-サイクロセリンを飲むことによってその効果が数倍にまで高められることがアメリカ神経科学界で報告されました。 30人の患者を対象にして、透明のエレベーターで昇降を繰り返すバーチャル体験を与える治療を実施する際に、ある一群にはD-サイクロセリンをあらかじめ投与し、投与していない群との治療効果を比較しました。2回の治療の結果、D-サイクロセリンを投与されずにこの高所恐怖症治療を受けた人たちの恐怖レベルの低下は10%程度でした。一方、治療前にD-サイクロセリンを処方された人たちは不安レベルが50%も低下しました。 D-サイクロセリンは脳内の刺激を受け取るタンパク質の機能を高める働きがあります。このタンパク質を破壊されたラットは過去に体験した恐怖を克服できなくなることがわかっており、D-サイクロセリンがこのタンパク質の機能を高めることによって恐怖体験を克服しやすくしているのだと推定されます。 今後、D-サイクロセリンを使うことによって人前で話すことに恐怖を感じる治療に用いることが出来るかどうかが検討されることになっているそうです。
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