サイエンスアゴラ2007
2007年11月30日
Chapter-182 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
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iPS細胞は人工多能性幹細胞induced pluripotent stem cell の略で、誕生後の動物の細胞(今回の研究では市販ヒト皮膚細胞)に
ES細胞において重要な機能を担っている4つの遺伝子を導入することによって作り出される多能性幹細胞とよばれるもので、iPS細胞からもES細胞と同様にあらゆる臓器を作り出すことができます。ES細胞が不妊治療の過程で不要となった他人の受精卵から作り出されるのに対し、ヒトiPS細胞は患者自身の皮膚細胞から作り出すことができるため、拒絶反応のリスクが低く、脊髄損傷や若年型糖尿病など多くの疾患に対する細胞移植療法につながるものと期待されます。
iPS細胞(提供:JST)
iPS細胞から作り出した筋肉(左)と神経(右)
(提供:JST)
胚性幹細胞(ES細胞)は、増殖能力が高く、しかも、さまざまな臓器の細胞へ変化させることができるため、再生医学において、臓器を作り出す源の細胞として期待を集めています。しかし、ES細胞は、そのまま子宮に戻せば成長することができるヒト受精卵を破壊して内部の細胞を取り出して作製するために倫理上の問題を抱えている上、作られた臓器は患者にとっては他人の細胞から作り出されたものですので、移植によって拒絶反応が起ってしまいます。
ただし、問題点もあります。一つの問題は皮膚の細胞がES細胞のように無限に増殖を始めたということは細胞のガン化を示しており、実際に、組み込まれる4つの遺伝子のうちの一つはガン遺伝子です。iPS細胞は臓器細胞として増殖しなければならず、かといってガン細胞として増殖が暴走することも防がなければならないという難問が臨床試験に向けて今後の課題です。
もう一つの問題はiPS細胞から生殖細胞を作り出すことができ、さらに、iPS細胞ともともとの親とのキメラを経て iPS由来マウスが誕生することがマウスでの実験で確認されている点です。つまり、ある人の
iPS細胞由来の精子と卵子を作り出すことができれば、皮膚細胞提供者と同じ遺伝子を持つ子供を作ることができるという点で、これは人間のコピーにつながります。
これどiPS細胞は難病で苦しむ人々を助ける画期的な技術ですので予想される問題を克服してでもさらなる研究を進めなければなりません。病んだ臓器を自分の細胞から作った臓器で置き換えるという夢の再生医療がついに実現の段階に入ってきたと言えます。
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