放射線を用いた植物の品種改良　《ヴォイニッチの科学書》

Chapter-23
2004年1月24日

放射線を用いた植物の品種改良

　「おいしいものをたくさん食べたい」、「美しい花を愛でたい」などの欲求を満たすためにこれまで多くの野生植物に突然変異を人為的に誘発して新しく有用な植物・作物が作り出されました。

　1895年にレントゲンによって発見されたエックス線は1904年には様々な植物に対する作用が報告され、1934年にはその変異株を育種親としたタバコ品種の栽培が始まっています。それ以来、エックス線を含む放射線によって作られた新品種はおよそ1,500種にものぼります。

　日本では1950年代後半に放射線照射による遺伝、育種の研究が盛んとなり、1966年に初の突然変異品種「レイメイ」(水稲)を育成しました。その後1999年までに日本で育成された突然変異育種による新品種は200程度となっています。2001年秋にはダリアの花の色を放射線で変異させた品種が世界で初めて市場に出回り、その後も放射線を使った突然変異種の開発が精力的に行われています。

日本で作られた園芸植物について紹介します。

バラ
　神奈川県農業総合研究所では1979年よりバラの品種育成に取り組んでいます。
　ブライダルファンタジーと呼ばれる方白色の花を咲かせる品種に対して放射線を使った品種改良を試みたところ、花の色が白、淡桃、黄色、緑に変化したものが得られました。また、この品種の花びらは通常50枚ですが、21枚から200枚まで変化した品種が得られました。

ダリア
　広島市では日本でも珍しい切り花ダリアの電照栽培が行われています。これは冬出荷のための開花調整ですが、この栽培方法に向くダリアの品種はごく一部に限られています。そこで新品種開発のため、広島市農林業振興センターでは1996年より放射線照射による品種改良に取り組んでいます。ダリアに於いてもバラ同様、放射線照射によって花の色の変異や花びらの枚数の増減が生じましたが、全体的に花の色が濃くなる傾向があり、また、複数の色が一つの花に生じたり、まだら模様の品種なども作られました。ダリアの花びらは通常60枚ですが、これが100枚に増加して大輪となった品種が生まれ、これは2001年秋から「ワールド」という愛称で市場取引されています。