インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
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[今週の Openig Talk]

■7世紀末から8世紀初めに作られたと思われる高松塚古墳の壁画が著しく劣化をしています。このため、文化庁は石室を解体し壁画を研究施設で修復・保存することを検討していることがわかりました。

■東京大学の研究チームはマウスを使った実験から深い眠りに入ると臭いを感じなくなることを証明しました。これまで、深い眠りによって視覚、聴覚、味覚、皮膚の感覚はなくなることが確認されていましたが、嗅覚について確認したのはこれが初めてのこととなりました。
 この研究によると深い眠りの最中でも花から脳への情報伝達経路は機能しているものの、脳がそれを受診する体制になっていないのだそうです。

■5月15日に打ち上げ予定だったスペースシャトル「ディスカバリー」の打ち上げが22日に延期されました。理由は今回のディスカバリーで高じられた安全対策のうち、一部分について技術的に確認すべき点が残されているからだそうです。このディスカバリーには日本人宇宙飛行士野口聡一さんが日清食品が開発した世界初の宇宙ラーメンと共に搭乗する予定になっています。

■海洋研究開発機構の研究成果によると、最終氷河期から地球の気温が上昇する過程において海洋底のメタンハイドレート層が崩壊し、大気中に大量のメタンが放出されていたことがわかりました。
 メタンハイドレートは深海に沈んでいるメタンガスのフタの役割をするシャーベット状の物質でこれが崩壊すると、二酸化炭素の20倍もの地球温暖化効果のあるメタンガスが大量に大気中に放出されることが予想されています。
 この研究から、海洋底のメタンガスの放出が氷河期を終わらせたきっかけなのではないかと考えられます。

札幌市青少年科学館に「すごい」プラネタリウムが完成しました。お値段は1億6000万円だそうです。

■宇宙が誕生したビッグバンの直後(数十万分の一秒後)の温度は1兆度以上あったと思われます。この超高温の状態ではすべての物質の究極の基本粒子であるクオークはバラバラになりますが、これまでバラバラになったクオークは気体分子のように飛び回ると思われていましたが、日米の共同研究においてびっぎばんちょくごのウオークはしずくのような液体状態だった可能性のあることがわかりました。もし本当にしずく状態だったのならば宇宙の進化のシナリオの書き換えが必要になるかもしれません。

[最近の放送]>>バックナンバー  
  
Chapter-62 ヒトの脳の進化は特別な出来事だった 
Chapter-61 延命薬はできるのか? 
Chapter-60 天気が悪いと腰が痛い・・・は本当?
 
Chapter-59 宇宙ラーメン  
Chapter-58 最新の宇宙探索成果  
Chapter-57 犬ががん検診をする時代が来るかも  
Chapter-56 ドクターイエローのテクノロジー  
Chapter-55 タイムマシンを作る  
Chapter-54 青いバラ  
Chapter-53 夢でシミュレーションする私たち  
Chapter-52 超高速インターネット衛星 WINDS 
Chapter-51 ビールに放射線防護作用が  

 

 

Chapter-63 シリーズ人工衛星「JWST」 
2005年4月23日

今週の放送を聴くダウンロードする次回の放送

 地球から遠く離れた天体を観測する際に、地上の望遠鏡では大気がじゃまをします。遠くの天体は私たちのいる地球から高速で遠ざかっているため、光の波長が引き延ばされる赤方変移という現象を生じているので赤外線で観測を行わなければなりません。ところが、地球の大気は赤外線をほとんど吸収してしまうので、地上から赤外線による観測をすることは不可能です。また、この大気は常に揺れ動いているので私たちが星のきらめきを見ることができるように望遠鏡で得られた観測結果にも乱れが生じてしまいます。そこで、宇宙空間に望遠鏡を打ち上げて遙か彼方の天体を観測し、宇宙の起源に迫ろうというプロジェクトが進行中で、その中心となるのがジェームスウエブ宇宙望遠鏡です。

NASAのサイトはこちら 
Space Telescope Science Institute も参考になります

 ジェームスウェブ宇宙望遠鏡はNASA、European Space Agency、Canadian Space Agencyのコラボレーションで開発中で、2011年8月に打ち上げが予定されている赤外線観測性能に重点を置いて設計されている宇宙望遠鏡です。JWSTは大きな席方変移を持つ天体を高い性能で観測できるというその特長を生かしてビッグバンの直後に形成された最初の星や銀河、暗黒物質の謎に挑戦することになっています。

 JWST (右図)は軌道上での消耗品なども含めると6.2トンもの重さがあり、直径が6.5メートルの巨大な反射鏡とテニスコートほどもある日よけが搭載されています。JWSTは宇宙の遙か彼方から届くかすかな赤外線を検出しなければなりませんので、太陽や月、地球などが放射する赤外線を防ぐためにこのように巨大な日よけがついています。これらを折りたたんだ状態で打ち上げ、地上から150万キロメートル離れたL2リサジュ軌道と呼ばれる軌道上で展開するようになっています。L2リサジュ軌道というのはHSTの軌道よりもはるかに高い高度の太陽と地球の引力のバランスがとれている軌道で、この軌道では衛星は非常に安定するのでHSTよりも軌道の維持、姿勢の制御が容易になると同時に、巨大な赤外線源である地球からも離れるため微弱な赤外線を観測しやすくなります。

 そのかわり、この軌道には有人宇宙船を飛行させることができないのでHSTのようにスペースシャトルによる修理や部品のバージョンアップができないという問題もあります。そのため、JWSTの稼働時間はわずか5年しかありません。この軌道にJWSTが到達するまで3ヶ月もかかりますが、少しでも稼働時間を稼ぐためにこの軌道に到達する前から観測機器を稼働させ観測を行う予定になっています。

おさらい・JWSTを使って次のような謎に迫ります。
・宇宙の形
・銀河の進化
・太陽系の形成
・宇宙がどのように現在の化学的な組成を確立したか
・暗黒物質の性質と量

主な搭載機器

・近赤外線カメラ(NIRCam)
 600nmから5μmの波長領域の近赤外線で見た映像を撮影します。600nmからの観測が可能ですので可視光領域もこのカメラだカバーすることができます。このカメラはJWSTを使った研究の中心的役割を担う観測機器で、初期の恒星や銀河の誕生の謎を探ります。宇宙の初期の姿を観測するということは地球から100億光年以上離れた天体を観測することになります。遠くの天体は地球から非常に速い速度で遠ざかっていますので、そのスペクトルは赤外線領域に変移しているため可視光望遠鏡ではなく赤外線望遠鏡で観測しなければなりません。
 この赤外線カメラは赤外線領域の中でも波長の短い領域用と長い領域用の2台のカメラがペアになっており、それぞれ1700万画素と420万画素で同時に撮影をすることが出来ます。また、それぞれのカメラにコロナグラフと呼ばれる太陽系外惑星系や明るい恒星のすぐ近くにあるくらい天体を観測する際に使用する遮光板を搭載しています。明るい天体のすぐそばの暗い天体をコロナグラフ無しで観測しようとすると、近くの明るい点からのエネルギーがあまりに大きすぎて、ちょうど人間が太陽を見て目がくらむのと同じ状態になって目的とするくらい天体を観測することができません。そこで、コロナグラフを使って邪魔な明るい天体を隠すことによってその近くの暗い天体を観測することが可能になります。

・近赤外線スペクトログラフ
 600nmから5μmまでの赤外線スペクトルを採取する観測機器です。この装置で星の誕生のメカニズム、銀河の形成、宇宙の化学組成、活動銀河中心核、若い星団などの解析に必要なデータを採取します。このスペクトログラフはダイナミック・アパーチャ・シャッター・マスクと呼ばれる機能を装備しており、JWSTによる1回の観測でその中に写っている数百の異なる天体のスペクトルを同時に採取することが出来ます。

・中赤外線機器 (MIRI : Mid Ingrared Instrument)
 近赤外線カメラで観測できない5μmから27μmまでの撮影とスペクトルの観測を行います。MIRIによる観測によって銀河の形成と進化のしくみ、恒星の物理的な形成過程の謎、宇宙初期の重元素の誕生の仕組み、太陽系で生命を支えている物質の由来などを研究する予定になっています。

・ファインガイダンスセンサー (FGS)
 地上の天文台との間で通信を行ってJWSTの観測方向を精密に制御する装置です。

JWSTがHSTより優れている点
 宇宙望遠鏡と言って最初に誰もが思い浮かべるのはハッブル宇宙望遠鏡だと思いますが、可視光領域を中心に宇宙誕生直後の銀河の様子から比較的近距離の恒星や巨大な星雲までさまざまな天体を観測をしていたHSTと異なり、JWSTは銀河と星の誕生の謎に迫るために新宇宙を探る能力に重点を置いて設計されています。そのため直径にしてHSTの2.5倍もの大きさの主鏡を搭載していますのでHSTよりも微弱な信号を捕らえることができます。また赤外線観測装置もHSTよりも優れた機器が搭載されています。また、JWSTの軌道はHSTよりも地球から遠くにありますので、軌道の維持や地球からの制御が容易で地球の放射する赤外線の影響も受けにくくなっています。

 また、JWSTは宇宙の起源を探るほかに、太陽系以外の惑星系の探索においても成果を上げる可能性があります。機器の性能の観点からすると、太陽系の木星ほどの大きさのある惑星がその中心の恒星からの光を反射していれば、それをJWSTで直接観測することができるかもしれません。また、生まれて間もないまだ熱く溶けた状態の若い惑星系を観測できるかもしれません。これらの観測には上述のコロナグラフが活躍するものと思われます。

 また、宇宙空間には私たちが観測できていない謎の物質が大量に存在していると考えられており、これらの暗黒物質についてもJWSTは重要な知見を与えてくれるかもしれません。JWSTも暗黒物質を直接観測することはできませんが、大きな質量の周辺では空間がゆがみ光が曲がるというアインシュタインの一般相対性理論の重力レンズ効果と呼ばれる減少を利用して、JWSTによってこの光の曲がりを非常に高い精度で測定し、目には見えない宇宙空間の巨大な質量についての情報を得ることができる可能性があります。

 JWSTの打ち上げは2011年8月の予定です。

オープニングトークで紹介したグラフはこちら 

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