インターネット科学情報番組



科学コミュニケーター 中西貴之
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[今週の Openig Talk]

■心臓が左に形成されるのは
 東京大学の研究チームが左右非対称な臓器をそれぞれの位置に配置する際に重要な役割を担っている物質を発見しました。
 これまでの研究で身体の左右を決定する際には胎児期のお腹側のくぼみに生えている繊毛が羊水の流れを左向きにすることによって決定づけられていることがわかっています。この時に身体の左側になる胎児の部分でカルシウムの濃度が上昇していることもわかっていましたが、羊水の流れとカルシウム濃度の上昇の関係はよくわかっていませんでした。
 今回研究者らは胎児のお腹のくぼみからある特殊な蛋白とビタミンの仲間を含んだ袋状の物質が分泌されることを発見し、この袋が羊水の流れに流されて胎児の左側へ移動し、破れて放出された内容物が胎児の左側のカルシウム濃度を上昇させていました。

■宇宙航空研究開発機構 JAXA
 宇宙教育センター開設。JAXAの実践的教育活動を担う宇宙教育センターが、5月19日相模原キャンパスで業務を開始しました。生徒受け入れや先生のサポート、教材の提供など広範な活動を機動的に行なっていく組織だそうです。
>>公式サイト 

■横向きに回転するゆで卵が立ち上がるときには浮かんでいた
 慶応大学とイギリスケンブリッジ大学の研究者らは横になったゆで卵を毎秒30回転以上で回転させると独りでにジャンプしている可能性があると発表しました。
 これは卵が起きあがる過程を流体力学の理論で解析した結果予想された現象で、まだ確認はされていませんが最大0.1ミリの高さに 0.02秒以下浮かび上がることが予想されるとのことです。

■ブラックホール同士の衝突か
 NASA の SWIFT 衛星がブラックホール、もしくは中性子星同士の衝突を世界で始めて観測しました。この現象は 50ミリ秒という非常に短い時間のガンマ線バーストを観測したもので超新星爆発によるガンマ線バーストが 2秒以上続くのと全く異なっていたそうです。右図は中性子星同士が衝突する様子の想像図です。

■土星の衛星は47個
 日本の天体望遠鏡すばると NASA のカッシーニがそれぞれ土星の新しい衛星を発見しました。これによって土星の衛星の個数は合計 47個となりました。

■ついに太陽系外惑星を撮影
 ドイツイエナ大学の研究チームが太陽系外惑星の撮影に成功したと発表しました。地球から460光年離れたおおかみ座 GQ星の惑星で主星の周りを公転周期 1200年でまわり、質量は木星 1〜2個分だそうです。

[最近の放送]>>バックナンバー  

Chapter-66 3500年前のミイラ 
Chapter-65 炭酸飲料好きも遺伝子が決める  
Chapter-64 英語文法中枢   
Chapter-63 シリーズ人工衛星「JWST」     
Chapter-62 ヒトの脳の進化は特別な出来事だった 
Chapter-61 延命薬はできるのか? 
Chapter-60 天気が悪いと腰が痛い・・・は本当?
 
Chapter-59 宇宙ラーメン  
Chapter-58 最新の宇宙探索成果  
Chapter-57 犬ががん検診をする時代が来るかも  
Chapter-56 ドクターイエローのテクノロジー  
Chapter-55 タイムマシンを作る  
Chapter-54 青いバラ  
Chapter-53 夢でシミュレーションする私たち  
Chapter-52 超高速インターネット衛星 WINDS 
Chapter-51 ビールに放射線防護作用が  

 

 

Chapter-67 慢性疲労症候群 
2005年5月21日

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 慢性疲労症候群とは・・・
 普通に生活していた人に突然原因不明の倦怠感、微熱、頭痛、筋肉痛、精神神経症状などが起き、6ヶ月以上連続してあるいは断続的にこの状態が続いて健全な社会生活が送れなくなる疾患で、運動が原因ではなく休息を取っても回復しないのが特徴です。
 たとえば、成績優秀・明朗快活でクラスの人気者だった女子中学生がある朝、突然起きることが出来なくなり、それから先学校に行けなくなってしまった・・・などという例が紹介されているように女性の方がかかりやすいという報告もあります。
 原因はわかっていませんが、ウイルスが何らかの関与をしている可能性を示す例が多数報告されています。治療方法は抗うつ薬、ステロイド、抗ウイルス薬、サプリメント、ビタミン剤など様々なものが適用され効果があると報告されることもありますが、治療薬が存在しないというのが実際のところです。

 慢性疲労症候群にかかると発熱やノド痛、リンパ腺の腫れが生じますし、集団的に発生することもあるのでこの病気はウイルスなどによる感染症ではないかと疑われていました。しかし一方では、集団は全員が同じような環境にあるため同じようなストレスを受ける社会的・精神的問題が原因だという考え方も示されています。今回はウイルスに着目して紹介します。

 慢性疲労症候群との関係が深いのではないかと思われているウイルスにエプスタインバーウイルスがあります。

 このウイルスによる感染症は大変よくみられる病気で、米国成人の95%近くが感染しているといわれています。たいていはかぜや他の軽いウイルス感染症に似た症状を起こしますが、普通は1ヶ月程度で治癒してしまいます。ところが一部の人では微熱や全身倦怠感が出るようになり、慢性疲労症候群と全く同じ症状を呈するようになります。それで、慢性疲労症候群はエプスタインバーウイルスが原因ではないかと考えられるわけです。

 慢性疲労症候群に関与している可能性のあるウイルスは他にもあってボルナ病ウイルスもその一つです。これは200年前から馬の病気として知られていたウイルスですが1985年になって人に対しても精神・神経疾患の病原性を持つことがわかってきました。

 そこで、このウイルスと慢性疲労症候群の関係を調べるために慢性疲労症候群の血液中の抗体検査を行ったところ、健常人ではボルナ病ウイルスの陽性反応を示す人はほとんどいなかったですが、慢性疲労症候群の患者においては3人のうち1人が陽性反応を示しました。このことから少なくとも一部の慢性疲労症候群の患者にはボルナ病ウイルスが関わっているのではないかと考えられています。

 話は変わって、米軍には湾岸戦争後遷延性疲労患者と呼ばれる患者が多くいて、湾岸戦争症候群という原因不明の病気が定義されて、多くの患者がマイコプラズマに感染していることがわかりました。この患者に適切な抗菌薬を投与したところ7割の患者の治癒に成功しました。

 ここで、湾岸戦争後遷延性疲労と慢性疲労症候群の症状が非常に似ていることが知られており、慢性疲労症候群患者の培養細胞を電子顕微鏡で調べたところマイコプラズマが存在していることが確認されました。ということは慢性疲労症候群は抗菌薬で治療することが出来る可能性があるということです。ただし、現時点では、抗菌薬による慢性疲労症候群の治療はデータ不足のために否定的に考えられています。

 もちろん社会的・心理的ストレスも無視することは出来ず、ストレスによって免疫系のバランスが崩れ、元々感染していたウイルスが免疫による生体防御を突破して活性化し、インターロイキンなどのサイトカインが異常に作り出され、神経細胞に異常が生じ、異常な疲労感が遷延化するのではないかと考えられます。

 慢性疲労症候群にかかってしまっても、日本には疲労に関する専門外来がほとんど無く、また、病気として認識されずにナマケモノの扱いを受けてさらにストレスが増しより一層免疫系が崩れ病状が悪化してしまうことも少なくありません。

 また、医学的な統計データがあるわけではありませんが、冒頭で紹介した中学生のように、大人も含め仕事や勉強ができてまじめな人が突然発症するケースが多くあり、身体は動かなくても精神状態はまじめなまま正常な状態が保たれているので自分で自分を「なぜ仕事に行けないのか」「自分はナマケモノになってしまったのか」と責めるようになり、このことが回復を遅らせていると考えられます。

 また、医師が診察してもあらゆる検査結果が正常と出てしまうために正しく対処できない医師が多い・・・というか、患者が専門外の医師にかかってしまって対処が出来ないことが多いことも問題です。

今週の話題に興味を持った方はぜひこちらの書籍も読んでみてください

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