Chapter-31
2004年4月10日
シリーズ学会発表(1)
日本薬理学会第124年会
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臨床検査値に及ぼす喫煙の影響
(久米医院・東京警察病院薬剤部)
タバコを吸うと肺ガン、COPDなどのリスクが高まりますが、血液生化学的にはヘモグロビン値と白血球数を増加することもわかっています。増加の程度は吸うタバコの本数が多ければ多いほど、喫煙期間が長ければ長いほど異常な値を示します。
ヘモグロビンはもともと酸素を前進に送り届けることがその機能ですが、タバコを吸う人のヘモグロビンには一酸化炭素が結合してしまい酸素を運搬できなくなってしまっています。そこで、酸欠になることを回避するためにヘモグロビンが血液中に大量に作り出されて健康診断で異常値を示すことになります。
また、白血球はタールなどのタバコに含まれる有害成分が血管の中に侵入してきた際に、身体を守るために白血球が大量に生産され、この値が以上に高いということはそれだけ血管の中に有害成分が大量に入り込んでいるということを示しています。
タバコを吸う人は健康診断を受けた際にヘモグロビン値と白血球数を特に注意深く確認し、身体が発しているSOSに早く気づくことをおすすめします。
神経管細胞による脳血管形成
(明治薬科大学)
かつては中枢神経細胞は年齢とともに失われ回復することはないと思われていましたが、近年の研究では中枢神経は大人になっても再生されることがわかってきました。
中枢神経は機能を分担した各種の細胞の集合体ですが、神経幹細胞と呼ばれる細胞が成長してこれらの機能を持った細胞に姿を変え機能します。今回の研究で神経幹細胞が神経のみならず、神経に酸素を供給するためのインフラとも言える血管細胞にも姿を変えることが出来ることが明らかになりました。実際にマウスの脳の中でそう言った細胞の成長が起きていることが確認され、このことは、中枢神経の再生を積極的に行う脳機能再生薬の開発につながる研究です。
キャベンディッシュおよびスウィーティオバナナ中のドパミンおよびセロトニンの変動
(帝京大学)
日常的な食べ物であるバナナの中に神経伝達物質と呼ばれるドパミンやセロトニンが大量に含まれていることが発見されました。ドパミンにはやる気や集中力を高めたり、運動機能を高める働きがあり、セロトニンには興奮を静めてリラックスさせる働きがあります。
食品成分とHelicobacter pylori除菌剤との併用による相乗効果の検討
(静岡県立大学)
胃ガンの原因がhelicobacter pyloriと呼ばれる微生物であることはすでに知られていますが、日本人の多くがすでにこの菌に感染していると言われています。胃ガンの発症を防ぐためにはこの菌を除菌する必要があり、多くの医薬品が使われていますがいずれも副作用や耐性菌の出現が問題と考えられています。
研究者らは日常食品の中にHelicobacter pyloriを除菌できる成分を含む食品を求めて研究を行ったところ、沢わさびの茎や根にその作用があることを発見しました。現時点ではその作用を持つ成分はまだ解明されていませんが、人のHelicobacter
pyloriを用いた試験管内の実験では沢わさびの成分と抗生物質を合わせて使用すると非常に除菌効果が高いことがわかりましたので、今後、この成分の解明と医薬品への応用を目指して研究が続けられます。
培養平滑筋細胞シートによる平滑筋組織の再生
(東京理科大学)
再生医療という技術は現在多く行われている臓器移植に代わり、細胞を培養して増やすことによって損傷した臓器を再生しようとする新しい治療方法です。
この研究チームは、再生医療のために提供される組織としてプレート上で細胞の薄膜、細胞シートを作成し、これを治療カ所に多層に重ねて貼り付けることによって臓器の機能を回復させる全く新しい医療技術を開発しました。
今回の発表では暴行平滑筋組織の再生を目標として、培養平滑筋細胞シートを作成し、3枚のシートを重ねて患部に適用したところ、細胞シート内に毛細血管が形成されもともとの平滑筋に近い組織再生技術として応用可能であることが確認されました。
かつては組織そのものを試験管内で作り出すことを目的にしていた時代もありましたが、この方法は無理であることがほぼわかっており、今後は細胞シートを使った組織再生技術がより現実的な手法として研究されて行くものと思われます。
以下は番組中ではご紹介できませんでしたが・・・
魚臭症候群患者のトリメチルアミン代謝に及ぼす食品成分の影響
(北海道大学)
満員電車の中などで腐った魚の臭いに似た不快な体臭を経験した方もおられると思いますが、この原因はある食品に含まれている成分の悪臭が尿や汗から直接出てくる遺伝性の病気なのです。以下や鱈などの海産物にはそれ単体で取り出すと悪臭を放つ様々な成分が含まれていますが、普通の人はこれを食事として摂取しても身体の中で悪臭成分が分解されるため、身体の外には臭いが出てきません。ところが遺伝的にこの分解する能力を欠損している人は悪臭成分が汗の中まで入り込んでしまうのです。
この病気は生命の危険は一切ありませんが、学校や会社でのいじめの対象になってしまうため、治療の必要があります。今回の研究ではこの患者に活性炭や葉緑素の成分を食事と一緒に食べてもらったところ悪臭成分の無臭化が確認されました。
疑似微少重力暴露による骨芽細胞の分化機能の変化
(帝京大学)
長期間宇宙に滞在すると骨の強度が著しく低下することはよく知られていることですが、無重力状態でどのように骨が破壊されるのか、そのメカニズムは今多解明されていませんでした。
今回研究者らは身体の中に常に活動し骨を作っている骨芽細胞と、古くなった骨を消去して新しい骨を作る下地作りをしている破骨細胞の働きに着目して栗のスタット回転培養装置という人工的に微少重力状態を作り出せる装置で実験を行いました。
その結果、骨を作る骨芽細胞は骨を作る能力は微少重力状態でも変わらないものの、破骨細胞に下地作りをせよと命令する機能が高まっていることがわかりました。この命令は骨芽細胞から放出されるある物質が放出され、それを破骨細胞が受信することによって破骨細胞が下地作りを開始するのですが、骨芽細胞の機能は変わらず、破骨細胞の下地作りばかりが活発になるので結果として新しい骨の製造が古い骨の消去のスピードに追いつかなくなり、骨がもろくなると結論づけることが出来ました。
原因がわかりましたので、来るべき宇宙生活時代に備えてこの状態を改善する医薬品の研究が精力的に行われるものと思われます。
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