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Chapter-32 オーストラリア在住のブラッドフィールドさんが、2004年3月23日と24日の二日にわたって、25センチメートル反射望遠鏡を用いた観測により彗星状の天体を発見しました。オーストラリアのサイディング・スプリング天文台などの観測によって新しい彗星であることが確認され、ブラッドフィールド彗星と名付けられました。 この発見に先立ってすでに、2004年の4月下旬から5月上旬にかけて肉眼で観測できる二つの巨大彗星が現れることがわかっており、それらの名称はニート彗星とリニア彗星です。 彗星同士の天文ショー以外にも今回の彗星接近では二つのショーが用意されています。一つ目は見た目上の惑星直列で、2004年5月14日前後の20時ごろ、4つの惑星とニート彗星が一直線に並びます。このときニート彗星は西の空にあり、背景を蟹座にしていますが、その南よりの高い位置に木星があります。そして北に向かってほぼ45度で下る方向に木星からニート彗星、土星、火星、金星と合計4つの太陽系惑星とニート彗星が一直線に並びます。 さて、今回のニート彗星とリニア彗星の軌道ですが、76年周期で何度も姿を見せるハレー彗星のような楕円軌道ではなく放物線状の軌道を持っていることがわかっています。つまり、今回太陽に再接近した後、太陽から遠ざかっていくのですが、この両惑星は太陽の引力を振り切って宇宙の彼方に飛んでいく種類の彗星です。ハレー彗星が76年ごとに地球にやってくることをハレーロマンスなどという風に表現する人もいますが、ニート彗星とリニア彗星は今回私たちの前に姿を現すのが最初で最後の彗星です。 また、リニア彗星においては2003年9月に行われた日本のすばる望遠鏡の観測によって水の氷の粒があることが発見されました。彗星から水の氷粒が見つかったのは、ヘール・ボップ彗星に続いて、今回が2例目なのだそうです。彗星の固体部分である「核」は、太陽系が誕生したころ存在していた惑星の元が生き残ったものと考えられていますので彗星核中の氷の研究は太陽系形成期の物理環境を探る上で非常に重要なプロセスです。しかし、彗星に水があるかどうかを観測することは非常に難しい作業です。水星が地球に近づくと観測は容易になりますが、そのころには太陽からのエネルギーで水は蒸発している可能性がありますので、できるだけ太陽から離れた位置にある段階で観測しなければなりません。ところが、遠い距離にある彗星は非常に暗く小さいので、天体望遠鏡に非常に高い解像度が求められるので、これまではハッブル宇宙望遠鏡によるたった一つの成功例しかありませんでした。今回、日本のすばるがハッブル宇宙望遠鏡が成功したヘールボップ彗星よりも100倍も暗いリニア彗星で水の氷の観測に成功したことは、日本の天体観測技術が世界でトップであることを世界に知らしめたことにもなりました。NASAはハッブル宇宙望遠鏡の今後のメンテナンスの中止、事実上の廃棄を検討していますので、宇宙観測における日本の役割はますます大きくなりそうです。なお、2011年にNASAは次の宇宙望遠鏡を打ち上げ予定だそうです。 さて、最後に今回の彗星を観測方法ですが、彗星はそのほかの単体に比べると見かけの大きさがかなり大きく、彗星の頭の部分の見かけの大きさは月ほどもありますので、彗星の観測にもっとも適しているのは天体望遠鏡よりもむしろ双眼鏡です。倍率は10倍程度が適当で価格は3万円から4万円程度です。また、バードウォッチングに使用するフィールドスコープも彗星の観測にはお勧めです。彗星を観測できる日時と方角については文部科学省国立天文台のWebSiteや科学雑誌ニュートンなどから情報を入手してください。 |