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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■「最新科学おもしろ雑学帖」が愛媛県の新居浜工業高等専門学校で読書感想文コンクールの課題図書に選ばれました
(2006年9月) [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-137 宇宙日傘 アメリカアリゾナ大学の研究チームは宇宙空間に巨大な日傘を浮かべて地球へ降り注ぐ太陽のエネルギーを拡散させることによって地球温暖化を抑制しようと考えています。 地球温暖化対策を研究している科学者の多くは地球温暖化の原因となる物質を抑制したり、エネルギー源を他のものに置き換えることを中心に研究を続けていますが、アリゾナ大学の天文学者ロジャー・エンジェルは宇宙空間に日よけを打ち上げて地球に到達する太陽エネルギーを減らすことによって地球温暖化を抑制しようと考えています。 このプランでは、宇宙空間の L1リサジュ軌道と呼ばれる場所に何兆個もの小さな日よけを並べることによって地球に日陰を作ることを計画しています。L1 リサジュ軌道については、「最新科学おもしろ雑学帖」をお持ちの方は、63ページに私がイラストを描いていますので見ていただければと思いますが、地球と太陽の中間よりやや地球よりの場所で、地球の引力と太陽の引力のバランスが取れているため、衛星などを安定して配置することができる場所です。 この宇宙日よけは、一個の大きさはわずか60センチ程度。厚さはわずか0.005ミリメートルの非常に薄い膜で、重さはわずか1グラムしかありません。これを大量に使用して直径が地球の半分ほどの大きさの筒のような形に配置し、その筒の長さは地球の10倍ほどの大きさでおよそ10万キロです。筒は地球と太陽を結ぶ線上に軸を揃えて横たわるような様子になり、そこを通過する太陽光線は10パーセントが散乱するものと思われ、大気中の二酸化炭素が2倍になったときの地球温暖化を抑制することができます。 宇宙空間に日傘を打ち上げるという方法は 1989年に最初の提案がなされました。けれど、この時に提唱された日傘はかなり大きく重い構造物で、遠い将来に月に製造工場を建設してそこから宇宙空間に浮かべるという実現はかなり困難なプランでした。 日よけの総重量は2000万トン程度と見積もられています。打ち上げ費用は、現在の化学燃料のロケットでは500グラムを打ち上げるために100万円以上もかかってしまいますが、アメリカのサンディア国立研究所が開発したエレクトロマグネティックスペースランチャーという安価な発射装置を使えば500グラムを2000円程度で打ち上げることができると計算されています。目的とする数量の日傘を打ち上げるためには、20機の発射装置で5分に1回の発射を10年間続ければよいことになります。この発射装置は電磁石の反発を使います。この電力源に水力発電を使えば完ぺきですが、最悪の場合、火力発電による電気を使ったとしても地球温暖化収支は合う計算となっています。打ち上げられた日よけは太陽光発電によるイオンエンジン輸送機で L1リサジュ軌道まで輸送する予定です。 このプランは一見途方もない夢の話しのようにも思えますが、一つ一つの技術はすべてすでに存在しているものばかりですが、宇宙日よけの完成まではおよそ25年を要するものと思われます。
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