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Chapter-36 はやぶさは2003年5月9日に鹿児島県内之浦から打ち上げられました。目的地は小惑星イトカワで到着予定は2005年です。到着後、はやぶさはこの小惑星の観測を行うと同時に惑星の岩石を採取し地球に持ち帰るサンプルリターンに挑戦することになっています。 ここで小惑星について復習しておきたいのですが、小惑星は最大の物で直径1000km程度で、太陽系においてすでに数十万個も発見されています。その多くは火星と木星の間にありますがいくつかは地球の公転軌道に近いところにあり、今回のはやぶさのターゲットであるイトカワも地球の軌道に比較的近い位置を公転している小惑星で、直径は500m程度の非常に小さな小惑星です。 では、小惑星を研究することによって何がわかるかというと、それは小惑星の成り立ちまでさかのぼって話をしなければなりません。私たちの住む地球を含めて太陽系の惑星ができた経過については様々な説がありますが、現時点でもっとも有力な説は原始太陽系において太陽の周りを取り巻いていたガスの雲が、わずかな密度のムラが原因で次第に凝集し、微惑星と呼ぶごく小さな惑星が出来ます。これらの微惑星同士がさらに衝突することによって次第に成長し地球などの惑星になります。この点において、小惑星はこの過程の途中で成長が止まった物と言うことができます。つまり小惑星は地球ができてくる途中の情報をそのままとどめている可能性があるので地球がどのようにして生まれたかを知るためには小惑星を調べることによって多くの情報が得られるという訳なのです。 次に、はやぶさがイトカワに到着してからのミッションと、どのようにしてイトカワからサンプリングを行うかについて紹介します。 このサンプルリターンは世界で初めての挑戦となるものですが、はやぶさにはもう一つ世界で初めての画期的な技術が投入されその性能の実証も今回のミッションの大きな目的の一つです。それはイオンエンジンによる宇宙空間の航行です。イオンエンジンはキセノンという気体をイオン化し、電子レンジに似た仕組みで電気的に噴射して加速するもので、開発に15年を要したミューテンと呼ばれるエンジンです。これまで、宇宙航行技術は化学燃料を燃やすロケットエンジンしか実用化されていませんでした。 この点がどのようにすごいかというと、実は惑星探査機には基本的に加速能力を持っていません。つまり、ボイジャーも、パイオニアもNASAやEUで打ち上げられた多くの火星探査機も地球からロケットで打ち出された後は惰性で慣性飛行をしているのです。ところがはやぶさは日本が開発したイオンエンジンを搭載していますので自分で加速し、軌道を変えながら航行することが出来ます。つまり、はやぶさは宇宙船に最も近い探査機ということができます。宇宙空間で自力で加速ができると言うことは、打ち上げに巨大なロケットを必要としないというメリットもあります。従来の探査機は目的地に到着するに必要な加速を地上からのロケットの発射速度でまかなわなければなりません。地球の引力は強力ですのでわずか数トンの探査機を打ち上げるにも巨大なロケットが必要だったのですが、イオンエンジンがあればとりあえず宇宙空間に探査機を出してやればあとは自分で加速して飛行することができます。実際、はやぶさを打ち上げたのは日本の中型ロケットでイオンエンジンの開発なくしてではとても地球外探査機を打ち上げる能力など持っていないといえる機種でした。この技術はやがてくる探査機によるより深い宇宙の探査や火星への有人飛行などにおいては欠くことのできない技術で、その技術を日本が世界で初めて実用化したという点は誇りに思っていいと思います。 また、はやぶさは自律航行をする能力を持っています。自律航行とは地球からの指令・操縦や、コンピューターに入力された手順に従うことなく、搭載されたカメラやレーザーのデータを自ら判断して航行するものです。わずか500メートルしかない小惑星の上空6kmにぴたりと静止し、そこから降下とサンプリングを繰り返すには地上からの指令では臨機応変に対応できず、イトカワの表面の様子は良く理解されていませんので、あらかじめ手順をコンピューターに入力しておくことも不可能です。そこで、はやぶさ自信が自分の判断ですべてのミッションをこなす必要があるということなのです。 過去のこの番組でアメリカの火星探査機を紹介した際に、探査機は意外と古い技術で作られていて、それは先進性よりも確実性を重んじるからだと述べましたが、日本の「はやぶさ」は世界の最先端技術で作られて、「はやぶさ」を成功させることは宇宙開発の新たな一歩を日本が踏み出すことだと言うこともできます。 |