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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■アストロアーツ社刊「星ナビ」2007年2月号で紹介されました(2007年1月) [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-143 宇宙の暗黒物質の空間分布を初めて測定 この構造は、宇宙初期に生じた密度の小さな揺らぎが少しずつ成長して、137億年余の時間をかけて進化したと考えられています。 その際、目に見える物質の揺らぎだけで現在の宇宙の構造を作り出すには宇宙の年齢よりも多くの時間がかかる計算になることがわかり、今の技術では観測できいないダークマター(暗黒物質)があり、その密度の揺らぎの中で銀河が誕生したというアイデアが提唱されました。そこで、私たちが直接観測できないダークマターは、実際の宇宙の中では、どのように分布していおり、銀河の形成にどのように関わったのかを解明するためにCOSMOSプロジェクトが立案されました。COSMOSはCosmic Evolution Survey(宇宙進化サーベイ)の略でカリフォルニア工科大学のニック・スコビル博士を中心に世界各国から約70名の科学者が集まる国際的な共同研究です。 COSMOSプロジェクトにはハッブル宇宙望遠鏡と日本のすばる望遠鏡が使用されました。ハッブル宇宙望遠鏡は2平方度(満月を並べると3×3=9個もすっぽり入ってしまう広さ)の視野の天域を高性能サーベイカメラで撮像観測を行い、観測した領域に含まれる約50万個の銀河の形態を詳細に調べ、「重力レンズ効果」と呼ばれる手法を用いて、視野内のダークマターの分布を調べました。ダークマターは巨大な質量を持っていると思われますので、ある場所に質量を持つ物質がより集中して分布していると、相対論的効果によって背景の天体の像にゆがみ、すなわち重力レンズ効果が生じます。生じた重力レンズ効果の程度によって、そこにどれだけの質量があるのかを推定できます。 一方、国立天文台すばる望遠鏡を用いて、解析に用いられた約50万個の銀河の赤方偏移を測定し、距離を推定しました。この結果をハッブル宇宙望遠鏡の結果と合わせて解析すると、重力レンズ現象を引き起こしているダークマターの距離が推定できます。これにより、ダークマターの3次元的な空間分布を世界で始めて明らかにすることができ、ダークマターもまた、大規模構造を形成していることが、明らかになりました。
そして、これを、銀河の3次元分布と重ね合わせると、それらはほぼ一致しており、銀河はまさにダークマターの作る大規模構造の中に分布していることがわかりました。
今回の観測で「ダークマターの作る大規模構造の中で、銀河が形成され、進化してきた」というシナリオが観測的に検証されたことになります。 宇宙の暗黒物質(ダークマター)については、「最新科学おもしろ雑学帖」の21番にまとめてありますので、本をお持ちの方はあわせて読んでおいてください。 ニュートンプレス発行の「ニュートン別冊 宇宙創造と惑星の誕生」にもダークマターについて書かれています。 重力レンズ効果については29番にまとめてあるのですが、本に書いたのは強い重力レンズ効果と呼ばれるより一般的な重力レンズ効果です。COSMOSで採用されたのは弱い重力レンズ効果と呼ばれるものです。それは銀河団などの顕著な構造がなくても、銀河が適当に集団化していると、その背景にある銀河から放射される電磁波は弱いながらも重力レンズ効果を受けます。 [他局の科学番組放送予定] □ディスカバリーチャンネル □サイエンスチャンネル (SkyPerfecTV
765ch) |