2010年1月2日
Chapter 271 2010年はリンの貴重さに思いをはせる年にしましょう

前回の放送トップページ次回の放送

 あまり話題になっていませんが、ここ数年、リンの枯渇問題が対応の緊急度を増しています。リンは農作物の栽培には欠かせない元素で、リンがなくなれば世界は食糧危機に陥ると言われています。リンは鉱山でリン鉱石を採掘することによって得られますが、主要なリン鉱山は掘り尽くされつつあり、コスト的に見合うリン鉱石は早ければ50年、長くても約130年で掘り尽くしてしまうとされています。
日本には十分な量のリン鉱石を採掘できる鉱山はありません。そのため、日本はリンを中国から輸入しています。

 考え方によってはまだ数十年もリン鉱石には寿命があるにもかかわらず、なぜ関係者らが焦っているのかと言えば、リン資源を持つ国々がリン資源の希少価値を意識し始め、リン鉱石を国防資源と位置づけ輸出規制が行われつつあることです。また、バイオエタノール生産のためのトウモロコシの栽培がリンの大量消費につながり消費をさらに加速させていることも鉱山の寿命を予想以上に縮めています。
肥料として散布されるリンは大量ですが、植物体内に取り込まれるリンの量はそのうちのごくわずかです。そこで、リンをリサイクルしようとする研究が最近注目を集めています。

 考えられるリンのサイクル方法はいくつかあります、

 ひとつは、植物自身にある程度リサイクルさせる方法です。植物に吸収されたリン酸の多くはフィチン酸という物質に組み込まれますが、このように化合物の一部として組み込まれたリンは肥料のリンとしては利用できません。そこで、植物がフィチン酸を作らないように遺伝子組み換えを行うアイディアです。

 また、雨水などに溶け込んで下水に流れ込み、汚泥の中にたまってしまうリンも回収しなければもったいないです。汚泥の中には無数の微生物が住んでいますが、これらの中にはリンを細胞の中に蓄積する性質があるものが数多くいます。そこで、これらの微生物にリンをしっかり吸収してもらい、それを人間が搾り取って回収しようとするアイディアもあります。リンをたっぷりとため込んだ微生物のことをバイオリン鉱石と呼びます。

 さらに、意外なリンのリサイクル元として注目されているのが鉄を作る際に得られるスラグです。スラグは製錬の工程で製品から分離された不要物のことですが、鉄鉱石には微量にリンが含まれていますので、このリンが不純物として除去され、スラグの中に濃縮されます。超電導磁石を用いてスラグの鉄を分離除去することによってリンを回収できることがわかっています。ただし、スラグは当然ながらリンを抽出するために生み出されているわけではありませんので、取り出されるリンの濃縮や品質の改善が今後の課題です。

ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ

▼なぜジャイアントパンダは肉食動物なのに竹を主食にするのか
ジャイアントパンダは熊ですので、もともと肉食ですが、なぜ今は笹ばかり食べるのでしょうか。パンダの遺伝子を解析した結果、パンダは進化の過程で肉のうまみを感じる能力を失っていることがわかりました。そのため、肉を食べてもおいしくないので肉を食べなくなったのではないかと推測されています。

▼ハエの進化が観察された
 京都大学の研究室が、1954年から50年以上も真っ暗闇でショウジョウバエを育てる研究を続けた結果、姿や生殖行動などに変化が起きることがわかりました。これはショウジョウバエの進化だと考えられ、生物の進化がこのように実験室でリアルタイムに観察されたのは世界で始めてのことです。この進化したハエの遺伝を解析したところ、オリジナルとは約40万カ所も遺伝子が変化していて、嗅覚が発達し、互いをフェロモンの違いで察知して繁殖し、通常のハエとは一緒に飼ってもほとんど交尾しないことがわかりました。


今週の無料番組


ヴォイニッチの科学書は株式会社オトバンクが発行するオーディオブック番組です。
定期購読はこちらからお申し込みいただけます
このサイトでは番組のあらすじを紹介しています。無料で閲覧できます。
※FeBe!で定期購読をしていただいている方には毎週、ここで紹介するあらすじよりもさらに紹介した配付資料をお届けしています。今週は特別に、通常は会員限定の配付資料をどなたでも無料でダウンロードしていただけます。>>253.pdf


バックナンバー
   
Chapter 270 ヴォイニッチの科学書で振り返る2009年科学の話題 後編  
Chapter 269 ヴォイニッチの科学書で振り返る2009年科学の話題 前編  
Chapter 268 臭わない病気、聞こえない病気に関する最新情報  
Chapter 267 プランクトンが住みにくくなる北極海  
Chapter 266 宇宙でがんばっている探査機たちに思いをはせる  
Chapter-265 伝統医学
Chapter-264 軌道エレベーターと宇宙太陽光発電 
Chapter-263 最近耳にしなくなったオゾンホールの現状と地球温暖化との関係
Chapter-262 金平糖のサイエンス 
Chapter-261 30分でわかるノーベル賞2009  
Chapter-260 リチウムイオン電池
Chapter-259 iPS細胞の応用研究
Chapter-258 月での水の存在
Chapter-257 早起き遺伝子と恐がり遺伝子
Chapter-256 グラフェン
Chapter-255 地球温暖化とちょこっと発電 
Chapter-254 水素から電子を取り出す新しい触媒の発見 
Chapter-253 水にも構造がある 
Chapter-252 食べものと体内時計の関係
Chapter-251 金縛りについて
Chapter-250 国際宇宙ステーション日本実験施設きぼう  
Chapter-249 脳神経科学の話題  
特別番組 山口県立山口図書館 ちょこっとサイエンス講座「宇宙人はなぜそのヘンを歩いていないのか?」 
Chapter-248 サリドマイドの生化学 
Chapter-247 太陽系外惑星探査の歴史と現状 
Chapter-246 氷核活性細菌
Chapter-245 一卵性双生児の最新科学 
Chapter-244 ダークマターとダークエナジー
Chapter-243 フローティングタッチディスプレイ
Chapter-242 トランスジェニックコモンマーモセット
Chapter-241 食感とおいしさの関係
Chapter-240 獲得形質の遺伝に似た現象
Chapter-239 マルチバースと人間原理


>> 「Mowton(放送終了)」はこちら

Science-Podcast.jp 制作






科学コミュニケーター 中西貴之(メール
アシスタント BJ

ヴォイニッチの科学書は
あなたの心に科学の火を灯します。

有料会員登録はこちらから


ご案内
ヴォイニッチの科学書ポッドキャストは有料コンテンツです
    ▼ダウンロードしていただくためにはオーディオブック配信国内最大手オトバンク社の「FeBe!」でお手続きをお願いいたします。月額525円です。
▼このページの閲覧は無料です。
インターネットラジオ局くりらじより配信中の「ちょきりこきりヴォイニッチ」は無料です。
お知らせ
まぐろぐヴォイニッチ
    お知らせなどはこちらに掲載しています。
twitter twilog 
    たいしたことはつぶやきません。


トップページ


本も書いてます



 このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
 「ヴォイニッチの科学書」では毎週最新の科学情報をわかりやすく解説しています。番組コンセプトはこちらをご覧ください。>>クリック 

[この番組の担当は・・・]

ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


↓こちらもご利用下さい↓