【iPad アプリ発売開始】 【ヴォイニッチの科学書《有料版》番組要旨】 ドイツにあるデュースブルク・エッセン大学の研究者が、牛が放牧されている様子の写った写真をグーグルアースからダウンロードし、それを使って自由に牧草地に放たれた牛がどちらを向いているのかという調査を6ヶ月かけて行いました。その結果、この研究者は世界中の牛が特定の方向を向いていることに気づきました。その特定の方向とは北、それも太陽の位置から容易に類推できる真北ではなく、地磁気の北極、つまり磁北極でした。磁北極は地図上の北極とは大きく異なり、現在はカナダ北部に位置しています。 いまでは想像していたよりも多くの生物が磁気感覚を持ち、それらの多くが想像以上に高性能であることも分かってきましたが、生物の磁気センサーの解明に関する研究は困難を極めています。そのような中で磁気センサーが最初に解明された生物は磁性細菌です。 1970年代の研究で磁性細菌が強い磁気を帯びた酸化鉄、つまり磁鉄鉱の微粒子が連なった複数の糸を細胞の中に持っていて、この糸が磁場に沿って並び細菌を正しい方向に向けていることが分かりました。緯度の高い地域にいる磁性細菌はこの磁気感覚を使って上下方向を知り、生育しやすい海底の泥に向かって泳いでいることも分かっています。 磁性細菌の磁気センサーが解明されたことをきっかけにして、動物の体内にも磁鉄鉱の微粒子を含み磁気センサーとして機能する細胞があるのではないかと、探索が活発化しました。2000年代初めにはフランクフルト大学の研究者らが最先端の画像技術を使ってハトの上くちばしの皮膚細胞の中に磁鉄鉱の微粒子が並んだ構造体を発見しました。ただし、ハトの磁鉄鉱微粒子の大きさは磁性細菌のそれに比べてきわめて小さいナノメートルスケールのため、細胞の中ではランダムな運動の影響が大きく磁性細菌のように効果的には機能しない可能性もあります。 その後の研究でニジマスの鼻にある磁気センサーの仕組みが分かってきました。ニジマスの鼻にある磁気を感じ取る細胞の細胞膜ではイオンが細胞の外から中に流入するチャンネルをふさぐように磁鉄鉱のかたまりが細胞膜の内側に立っています。磁鉄鉱のかたまりが北を向いているときは細胞膜のチャンネルの形と磁鉄鉱の形がぴったりと一致するためチャンネルを磁鉄鉱がふさいでイオンが通り抜けることはできませんが、細胞の向きが北からずれると磁鉄鉱だけが北向きに角度を変えるため、チャンネルと磁鉄鉱の間に隙間ができてそこを通って細胞の外から内側へイオンが流入します。これによって生じる膜電離が情報として脳に伝えられニジマスは自分がどちらの方角を向いているのかを知るのだと考えられています。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
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