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Chapter-43 雄が不特定多数の雌と交尾する乱婚型の性質を持つアメリカハタネズミの雄の脳に、性行動に関わる重要なホルモン受容体の遺伝子を通常より多く発現するように導入したところ、近縁のプレーリーハタネズミに見られるように、一夫一婦をとったという研究成果がアメリカエモリー大学の研究チームによって発表されました。 哺乳類のうち、つがいの結びつきが強く、両親で子の世話をするものは5%にも満ちません。たとえば、私たちヒトに近い生き物においても ヒト ・・・一夫一婦型 と遺伝的に近縁の生き物でも種ごとにペアリングの形態は異なっています。今回の研究に用いられた動物では プレーリーハタネズミ ・・・一夫一婦型 です。 プレーリーハタネズミの雄では、バソプレッシンというホルモンが前脳の腹側領域に働いて、「つがいの絆」の形成を支配していることがわかっています。また、生体信号としてのバソプレッシンを受け入れる受容体にはV1a、V1b、V2の3種類がありますが、一夫一妻制のハタネズミ種では、このうちV1aの前脳腹側領域での発現量が、乱婚制のハタネズミ種に比べて多いことがわかっています。 バソプレッシン受容体 バソプレッシン ・・・下垂体から分泌される神経ホルモン。その機能は 研究者らはこの受容体と一夫一婦制の関係を検証を試みた結果、V1a受容体遺伝子を乱婚制の雄アメリカハタネズミの前脳腹側領域に導入し、受容体の全体量を増すと、不特定多数の雌の後を追いかけることが無くなり、パートナーの雌と寄り添うようにして一緒にいる時間が2倍以上長苦なることを発見しました。 今回導入した前脳腹側領域というのは、依存症や報酬への欲求を制御している領域です。つまり、報酬への欲求を成業する領域で受容体の量を強制的に増やしたと言うことは、報酬で満たされたと言うことと同じことを意味し、動物における報酬は何かと考えた場合にそれは性欲を満たされたと言うことになるのではないかと考えられます。 また、人間に近い生き物においてもチンパンジーのような乱婚型の種とゴリラのような一夫一婦型の種ではバソプレッシン受容体の発現パターンが異なっていて、ハタネズミの場合とそっくりなことがわかっていますので人間においても、浮気性の程度と脳内の化学的状態に関係があるのかもしれません。 一夫一婦型・乱婚型の成立要因 人間の場合 ちなみに、このバソプレッシンはプロリルエンドペプチダーゼと呼ばれるものによって分解され効果が無くなりますが、最近、赤・白ワインの中にプロリルエンドペプチダーゼの働きを阻害する成分が含まれていることがわかりました。この阻害物質は抗痴呆薬としての開発が期待されています。 今回の研究成果は、浮気の観点からよりもむしろ、わずか一つの遺伝子を導入しただけで社会的行動形態が変わってしまうと言うところにポイントがあり、これは、さまざまな行動形態の以上を伴う疾患の治療に応用できるのではないかと考えられます。 参考文献
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