子供たちに聞かせてあげたいノーベル賞

2010年10月16日
Chapter-311 子供の意外な"脳力"

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  わがままでよく泣くし、いつもきょろきょろしていて、いたずらばかり。普通の人はもちろん、人間を研究対象とする心理学者の多くもかつては幼い子供をいわばなにもわからない存在だと考えていました。しかし、最近の研究から、子供は予想以上にさまざまな知識を持ち、実験や統計分析など科学者が用いるような手法で周りの世界について学んでいることが明らかになってきました。こうして得られた画期的な発見は、赤ちゃんや幼児に対する私たちの概念を変えただけではなく、人間の本質についての新たな見解をもたらしました。

 赤ちゃんは実は統計分析が得意なのです。赤ちゃんは自分が予想していたこととは異なることが起きるとそれを長い時間見つめることが知られています。ある科学者が行った実験では、8か月の赤ちゃんにたくさんの白いピンポン球と少しの赤いピンポン球を入れた箱を見せ、そこから赤いピンポン球をとりだして見せたところ、確率的に出る可能性が高い白いピンポン球を取りだして見せたときに比べて、より長い時間赤いピンポン球をみつめていることがわかりました。このことは、赤ちゃんは箱の中に白いピンポン玉がたくさん入っていることを認識して、取り出されるのは白いピンポン球だろうと予測していた可能性を示しています。

 また、生後20ヵ月の子供を対象にした次のような実験結果も報告されています。緑色と黄色のおもちゃを用意し、箱の中に入れます。箱の中身は実験者にも子供にも何が入っているか見えるようになっています。実験では箱の中に緑のおもちゃをたくさん入れ、黄色のおもちゃは少ししか入っていない状態で実験者が箱から5個のおもちゃを取り出し、テーブルの上に並べます。子供に「テーブルの上のおもちゃの中からどれか一つをちょうだい」とお願いすると、こどもは、緑のおもちゃと黄色のおもちゃを特に意識せずに適当に実験者に1個のおもちゃを渡しているように思えました。

 けれど、実験者がその箱にはあまり入っていない黄色のおもちゃをたくさん取り出した時、同じように1個のおもちゃをくれるようお願いすると子供は黄色を選んで実験者に渡すようになりました。この結果からわかるのは、どうやら子供は実験者が、確率から予想される結果に反して、数の少ない黄色のおもちゃをわざわざたくさんテーブルの上に並べたのは、実験者が無作為におもちゃを選んで取り出したわけではなく、実験者が黄色が好きだからそのようにしたのだと考えたらしいということです。このようにして赤ちゃんや幼児は科学者のように目の前の状況を統計的に判断し、そこから結論を引き出すことによって周囲の世界について学んでいるらしいのです。

日経サイエンス2010年10月号

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バックナンバー
   
Chapter-310 ブラックスター   
Chapter-309 最近のロボットに関する話題   
Chapter 308 宇宙のエネルギー保存則は破れている?   
Chapter 307 人間の体内時計を簡単に測定する方法
Chapter 306 日本の洋上風力発電 
Chapter 305 地球と月の岩石に関する最新の話題  
Chapter 304 子どもの言語発達に合わせて親もマザリーズ(母親語)の脳内処理を変化  
Chapter 303 日本近海は生物多様性のホットスポット   
Chapter 302 日本の月探査計   
Chapter 301 鉄系超伝導体の新たな動き  
Chapter 300 神経活動の観察を生きた脳で実現した光遺伝学ツール  
Chapter 299 死につつある死海 
Chapter 298 旅するウナギの謎   
Chapter 297 フードケミストリー
Chapter 296 野菜工場
Chapter 295 サイエンスニュースフラッシュ 
Chapter 294 生命科学関連の記事盛り合わせ  
Chapter 293 海水淡水化   
Chapter 292 ネアンデルタール人と現生人類の関係について   
Chapter 291 最近の桜島について
Chapter 290 神経細胞に関する新知見2題 

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科学コミュニケーター 中西貴之(メール
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 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
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