2010年6月5日
Chapter 293 海水淡水化
(前回の放送|トップページ|次回の放送)
一般的に飲料水の第一選択肢としては河川、湖沼、雨水などの真水の利用ですが、それらの利用が難しい場合、海に近い地域であれば海水を処理して真水を生産することができます。また、潜水艦や大型の船舶の中にも同様の方法で艦内で使用する水を生産している船も多くあります。海水の塩分含量は約3.5%で、これを0.05%以下にまで下げて飲料水として使用します。
真水を得ることが難しいけれど、プラントを建設する資金がある中東地域では、水の沸点では塩は蒸発しないことを利用して、沸点を下げるために圧力を低くした容器の中で海水を熱して水蒸気を発生させ別の容器の中で冷却して水に戻すことによって真水が作り出されています。蒸溜法は簡単な原理で塩分をほとんど含まない水を作り出すことができますが、大量の熱を必要とし、費用がかかるのが難点ですが、現在採用されている方法のほとんどがこの蒸溜法です。熱源としては産油国では原油と共に掘り出される使い道のないガスの燃焼熱を利用したり、船舶の場合はエンジンの廃熱を利用したりしています。
サウジアラビアには海水淡水化公団というものがあり、日産数十万トンから100万トンまでのプラントを多数建設しており、飲料水はもちろん、工業用水や農業用水までも、この高価な蒸留水を利用しています。
海水を淡水化するもう一つの方法が膜を使って生産する方法です。この方法では、非常に目の小さな膜を海水に数十気圧の高い圧力をかけて通過させる方法で、膜を通過した水は真水となっています。蒸留法よりエネルギー効率は高いのですが、膜の目があまりに小さいので海水中の微細な浮遊物や微生物で詰まってしまうことが多く、安定正餐のためには整備にコストがかかる点が問題です。また、得られる真水に含まれる塩分量は蒸留法よりやや高くなります。ただ、装置の改良によって日産数十万トン級のプラントも安定稼働させることができるようになり、近年は大型プラントが相次いで建設されています。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼iPS細胞から有毛細胞を作り出すことに成功
有毛細胞とは音を聞く役目をする細胞で、その名前の通り毛の生えている細胞です。スタンフォード大学の研究者らがマウスを使った研究でこの細胞をiPS細胞から作り出すことに成功しました。有毛細胞は毛が揺れることによって音を感じ取りますが、この細胞は病気やケガの他、加齢や薬の副作用によって損傷することがあり、細胞の損傷は難聴の原因の一つです。ところが、一度損傷すると自然には再生しないために治療が難しく、再生技術の医療への応用が期待されます。
今回作り出された細胞はマウスの皮膚細胞を材料として遺伝子導入法によって作られたiPS細胞から、特殊な培養を行うことによって作り出されました。有毛細胞に特徴的に見られる遺伝子が働いていたほか、できた細胞は振動の刺激に反応して、神経細胞に情報を伝える電流も発生したことが確認できたようです。人の細胞を使った研究も進行中とのことです。
▼さまよう巨大ブラックホール
わたしたちの天の川銀河をはじめ、多くの銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在しています。このような巨大ブラックホールは、その中心に向かって落ちていく物質が激しく熱せられることによって放出される強いX線で観測することができます。
オランダ・ユトレヒト大学の研究者ら数十万個のX線源と数百万個の銀河の位置とを比較するプロジェクトを進めていたところ、ある銀河を見て、銀河の中心から外れた場所に、X線で輝く恒星状の明るい点が存在していることに気づきました。その明るさからして、それは超巨大ブラックホールらしいということです。
おそらくこの超巨大ブラックホールだと思われる天体は、コンピューターシミュレーションの結果からブラックホール同士の合体によって放出され、そのままの勢いで銀河の中を漂流しているものではないかと推定されています。
▼ 始祖鳥や孔子鳥は、木の上から滑空ぐらいしかできなかったかもしれない。
始祖鳥はすでに絶滅した化石動物でジュラ紀後期に出現しました。カラスくらいの大きさで頭骨に長い首が続き、小さな胴に頑丈そうな後肢と長い尾を持っています。前肢が大きく周囲に羽毛の痕も見つかっています。顎には歯がありますが、骨盤は鳥の仲間に似ていて、後肢は恐竜に似ています。羽毛がある以外はは虫類に似ているというこのような形態的特徴から、始祖鳥は鳥類とは虫類の中間的動物と考えられていて、飛行に関しては、羽ばたいて飛ぶことができたという説と、飛ぶことはできたとしても高所から低所への滑空程度のものであったろうという説が提唱されていました。
このたび、英国とアイルランドの研究者が始祖鳥を現生の鳥類と比較し、羽ばたいて飛ぶには翼の強度が足りないと結論づけました。鳥が飛ぶ際に翼にかかる荷重と翼の強度を計算したところ、現生の鳥類の翼は体重の6〜13倍の荷重に耐えられましたが、始祖鳥の骨格からの推定では0.55倍しかなく、自分の体重も支えられないことがわかりました。
今回の研究結果はさらに検証が必要ですが、もしこれが真実ならば始祖鳥の進化上の位置づけは恐竜に変更される可能性もあります。
今週の無料番組
ヴォイニッチの科学書は株式会社オトバンクが発行するオーディオブック番組です。
定期購読はこちらからお申し込みいただけます。
このサイトでは番組のあらすじを紹介しています。無料で閲覧できます。
※FeBe!で定期購読をしていただいている方には毎週、ここで紹介するあらすじよりもさらに紹介した配付資料をお届けしています。今週は特別に、通常は会員限定の配付資料をどなたでも無料でダウンロードしていただけます。>>253.pdf
|