2010年6月19日
Chapter 295 サイエンスニュースフラッシュ
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電極触媒
電極触媒というのは電極上で化学反応を活性化させる物質のことですが、九州大学と旭化成株式会社は共同で、新しい多孔性材料を使用し、白金などの高価な金属を使用しない電極触媒の開発に世界で初めて成功しました。多孔性物質とは身近では活性炭がその代表ですが、吸着剤、つまり、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質です。吸着剤の中にはある特定の気体を選んで吸着する能力の高い「多孔性金属錯体」というものがありますが、これは、気体を高い効率で分離・濃縮することができることから、世界中で研究開発が進められています。特に最近では、二酸化炭素を選び出して高い効率で吸着する多孔性金属錯体がいくつか開発され、二酸化炭素削減技術の観点からも注目されています。
地球深部探索船「ちきゅう」で沖縄トラフ熱水噴出口を掘削
地球深部探索船「ちきゅう」が今年の秋、地球生命の発祥場所とも考えられている深海の熱水噴出孔周辺を掘削し、特異な生態系の解明に挑むことになりました。海洋研究開発機構が2010年6月8日明らかにした掘削計画によると、掘削場所は琉球列島の西方、沖縄トラフにある熱水域。「ちきゅう」は9月1日から10月3日までの33日間、現在熱水が噴出している3地点で、最大50メートルの掘削を行い、コアサンプルを採取します。
熱水噴出孔は、360℃もの熱水が噴き出し、地球に生命が誕生した約40億年前の地球環境に似ている場所と考えられることから、掘削により生命誕生の謎に迫る新たな成果も期待されています。
iPS細胞でがんの免疫治療
理化学研究所の研究チームは、既にヒトへの臨床研究が進むリンパ球の一種「ナチュラルキラーT細胞」によるがん免疫治療に、山中伸弥・京都大学教授が開発したiPS細胞誘導技術を活用することを試みました。
マウスの脾臓(ひぞう)から採ったナチュラルキラーT細胞から山中教授と同じ方法でiPS細胞を作成、さらにそのiPS細胞からナチュラルキラーT細胞をつくりだすことに成功しました。この成果のポイントは、皮膚からつくられたiPS細胞ではナチュラルキラーT細胞以外のがん治療に役立たないリンパ球までできてしまうのに対し、iPS細胞から分化したリンパ球がすべてナチュラルキラーT細胞になることです。
黒色腫にかかったマウスにこの方法でつくったナチュラルキラーT細胞を入れてやると、がんの転移や再発を抑える効果があることが確かめられました。
首長竜は恒温動物の可能性がでてきた
約2億年から6500万年前までのジュラ紀〜白亜紀の海で繁栄した首長竜や魚竜などの海生爬虫類は、水温に関係なく体温を一定に保てる恒温動物とみられることが、フランスなどのチームの研究で明らかになりました。これによると海生爬虫類は長距離を速いスピードで泳ぎ回っていた可能性があるということです。
バージェス頁岩の生物はカンブリア紀以降も生きていたらしい
細菌発見された化石の研究によってバージェス頁岩動物群がカンブリア紀以降も生存していた可能性が浮上しました。バージェス頁岩はカナダで発見された堆積岩の層でカンブリア紀中期の軟体動物の化石が出土することで有名です。同じ時代の類似した生物の化石は中国とグリーンランドで発見されていますが、カンブリア紀の終わりと共に大量絶滅によって消滅した可能性が指摘されていました。今回、モロッコで同様の軟体動物の化石が発見されそれがカンブリア紀よりも後のオルドビス紀のものだったことから、バージェス頁岩の動物はカンブリア紀以降の化石記録から消滅したように見えるものの、実はそれは大量絶滅が原因ではなく、化石の保存状態が悪化したためである可能性が高くなりました。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼テレビを見ているサルは本当に楽しんでいる――。
京都大学霊長類研究所の研究者らが、脳の活動を計測する装置を使った実験でテレビを見ている猿は本当に楽しんでいることを突き止めました。研究者らは、近赤外光を用いて脳の活動を調べる「光トポグラフィー」という装置で、テレビを見ているアカゲザルの脳で活発に働く部分を特定しました。テレビで活性化した部分は、喜びの感情と関連がある「前頭葉」の一部で、人間の赤ちゃんが母親の笑顔を見て喜ぶ時に働く場所と同じでした。
▼自閉症:遺伝子コピーミスが原因 英大チーム解明
新生児100人に1人の割合で生じるとされる脳の機能障害「自閉症スペクトラム」が、複数の遺伝子のコピーミスから起きる可能性があることが、英オックスフォード大などの研究で分かりました。自閉症スペクトラムは、他者とのコミュニケーションや社会性の発達に遅れが見られます。自閉症のほか、知的障害がなく特異な才能を発揮する「アスペルガー症候群」なども含み、症状の多様さから「スペクトラム(連続体)」と呼ばれます。 研究者らはヨーロッパ人の患者996人と健康な1287人のゲノム(全遺伝情報)を比較。その結果、父と母から一つずつ受け継ぐべき遺伝子が一つ足りなかったり、三つになったりするコピーミスが、患者は健康な人より平均19%多く、健康な人ではめったに起きない遺伝子で起きていることがわかりました。
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