Chapter-93
東京大学、カゴメ、ミツカンがそれぞれ発表した自然科学の話題を3題
2006年1月21日
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イネの植物ホルモンを制御して収量改善
東京大学の研究グループが、葉の角度を制御している植物ホルモンのブラシノステロイドの働きを抑えた変異体を作成し、葉が直立することによって太陽光を受ける効率が向上し、密植栽培にも有利となった結果、施肥量を増やさなくてもコメの収量を約3割増加させることに成功したと発表しました。
植物の生長は植物ホルモンの作用によって制御されています。植物ホルモンの1つブラシノステロイドは、茎や葉の成長などを司っており、その一例としてイネではブラシノステロイドが葉の角度を制御していることが知られています。
東京大学の研究グループは、ブラシノステロイドの働きを抑えることによってイネの葉を直立させ、収量を増やすことができることを明らかにしました。この収量の増えたイネが普通のイネと違う点は葉が直立し草丈がやや減少するのみでした。葉が横に拡がった普通のイネでは、上の葉は光合成に必要以上の強さの光を受ける一方で、下の葉は上の葉の陰になってしまって光合成に必要な強さの光を受けることができません。直立葉の植物は、上の葉が光を受ける投影面積を減少させることにより、下の葉も光合成に十分な強さの光を受けることができるようになり、1本1本の実りの量が多くなると同時に、植物個体が成長するために必要な面積が小さくて済みますので、同じ面積により多くのイネを植えることができるようになり、それが収穫量の増加につながります。また、農耕地から流出する肥料が環境に影響を与えていることもわかってきており、肥料の量を増やさずに葉の角度を変えるだけで収穫量が増える今回の発見は環境保護の観点からも有用です。
これまで、別の植物で知られていたブラシのステロイドの変異株は葉の形態の他に実が小さくなるなど様々な変異が同時に発生していましたが、イネのみはブラシノステロイドを作る仕組みが他の植物とは異なっていたために、葉の形態以外に変化が見られなかったことが幸運でした。
肺気腫の進行をトマトが抑制
カゴメと順天堂大学の共同研究チームがタバコの煙による肺気腫の予防にトマトジュースの飲用が有効であることを動物試験で確認したと発表しました。
厚生労働省の「平成16年人口動態統計」では、タバコを吸うことによって有害な微粒子を吸い込むことが原因で発症する慢性閉塞性肺疾患が日本人の死因の第10位にランクインしています。2001年に発表された大規模疫学調査研究の結果では、日本における患者は約530万人と推定されています。
慢性閉塞性肺疾患になると気道や肺に慢性的な炎症が起き、慢性気管支炎や肺胞が破壊する肺気腫などが起こる病気です。一度壊れた肺の組織は元に戻らないため、現在の医学知識では治療することができず、進行を抑えることしかできないという困った疾患です。
さて、カゴメといえばトマトですが、トマトが赤いのはリコピンという抗酸化作用をもつ色素が含まれているためです。リコピンは様々な病気の原因だと思われている活性酸素の働きを抑える能力があり、すでにトマトジュースの飲用が気管支喘息の症状を改善することをカゴメは発表しておりました。このことからトマトが慢性閉塞性肺疾患にも効果があるのではないかと考え。実験用マウスにタバコの煙を毎日30分間、1週間に5日間それを8週間すわせ続けました。
この間、トマトジュース群は2倍に希釈したトマトジュースを自由に飲ませました。すると、トマトジュースを飲まなかったマウスは肺の構造や機能が低下し、肺気腫が発生しましたが、トマトジュースを飲み続けたマウスはその異常が抑制されました。また、機能低下を抑制するばかりでなく、肺細胞のアポトーシスを減少させ、肺組織の構築を維持していく上で大切な血管内皮増殖因子のレベルを上昇させることも確認されました。
食酢が血糖値上昇を抑制した
ミツカンと昭和女子大学の研究チームは食事と食酢を同時に摂取することで、食後の血糖値上昇を抑制することを明らかにしました。
健康な成人女性12名に試験食として、白米とドリンクを摂取してもらいました。ドリンクは2種類用意され、片方には食酢を15ml含んでいました。白米を食べると食後に血糖値が上昇しますが、白米と同時に酢を飲んだ人と飲まなかった人の血糖値を比べると酢を飲んだ人の血糖値は明らかに低い値でした。まtあ、この効果は酢を直接飲まなくとも、同じ量の酢が使われているわかめの酢の物でも同様の効果がありました。
酢についてはこれまでに血圧を下げる作用やコレステロールを下げる作用も知られており、これらとあわせ酢を摂取することで糖脂質代謝に関連した疾病の予防につながることが期待できます。今後はこれらの詳細な作用機序について研究を進めていくとのことです。
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