2010年4月24日
Chapter 287 腸内細菌が食生活に与える影響
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私たちは腸内細菌に、病原菌の感染防止や腸内環境の調整、食品に含まれる成分を分解・加工など、人間には備わっていない能力を役割分担してもらっています。
フランス・ロスコフ海洋生物研究所の研究チームは、海に住むある種の細菌が持つポルフィラナーゼと呼ばれる種類の酵素が、アマノリに含まれている硫酸化多糖類ポルフィランと呼ばれる細胞壁を構成する物質に作用することを解明しました。植物細胞の細胞壁は非常に丈夫なため、しばしば植物から栄養を摂取する際の障害となります。このことは海藻においても同様で、海藻から栄養を摂取するためにはこのポルフィランという細胞壁の炭水化物を分解する必要があります。
ポルフィラナーゼの遺伝子を持つバクテロイデス・プレビウスという細菌が日本人の腸の中に特徴的に生息していることも明らかになりました。日本人に特徴的な食習慣の一つに、海藻類を日常的に摂取する点があります。このような特殊な腸内細菌を日本人が獲得できたのは、海洋細菌が付着した海藻を生食していたためであると思われます。
もともと、海藻の細胞壁を破壊する酵素はガラクタニヴォーランスという細菌に特徴的なものですが、日本人では同じ酵素がバクテロイデス・プレビウスという違う細菌から見つかることから、日本人とバクテロイデス・プレビウスが共生している段階で、海藻にくっついたガラクタニヴォーランスが小腸にやってきて、2つの細菌の間で遺伝子の譲渡が行われ、バクテロイデス・プレビウスが階層を分解する能力を獲得し、やがて日本人の集団に広がって、海藻をたくさん食べる食習慣と結びついて栄養摂取に重要な役目を担うようになったのではないか、と推定されています。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼臨死体験のメカニズム
臨死体験は、血流中の二酸化炭素の度が過剰に高まることが原因で起こる幻覚症状である可能性があるとする研究が発表されました。心臓発作で病院に運び込まれ、後に蘇生した患者52人を対象に調査を行った結果、臨死体験をした患者は、体験しなかった患者に比べて、血中の二酸化炭素濃度が著しく高かったことがわかりました。それ以外の性別、年齢、宗教、救命治療に使われた薬品、あるいは蘇生までにかかった時間などは臨死体験の有無とは関係がありませんでした。ただ、二酸化炭素と臨死体験の関係は今回のデータからでは仮説の段階で、今後、二酸化炭素が実際に脳にどのように作用して臨死体験が起きるかについて、メカニズムを解明してその関連を証明しなければ断定はできません。
▼宇宙最大の構造が成長する現場
X線観測衛星「すざく」による銀河団の観測で、銀河団の外側に伸びる大規模な構造が発見され、そこから流れ込む冷たいガスによって銀河団が成長している証拠がとらえられました。今回の観測で、銀河に付随する高温ガスの中に特に温度の高い領域があることが明らかになりました。このガスは、大規模構造から冷たいガスが銀河団に流れ込む際に衝撃波が発生することによって加熱されているのだと考えられています。付近をすばる望遠鏡で精密測定したところ、銀河に付随する高温ガスは銀河団の質量とつりあってその場にとどまっており、そこに銀河団外部からガスが激しく流入し、銀河団が激しく成長していることがわかりました。
▼腸管関連リンパ組織内に共生する細菌群の発見および共生機構の解明
東京大学の研究チームが腸管粘膜のパイエル板(消化管での生体防御の主役を果たしている免疫反応を担うリンパ節組織)内に共生する、非常にユニークな細菌群を発見したと発表しました。細菌は外来生物ですので、本来ならば免疫系によってこれらの細菌群は除去されるはずですが、人間側は巧妙な免疫システムを備えることで共生細菌を偽自己化という仕組みでコントロールしています。今回の研究でパイエル板内部の共生細菌群を免疫系は特異的に認識して細菌の存在をパイエル板限定となるようコントロールしていることがわかりました。全身に細菌が一切存在しない無菌マウスにパイエル板共生菌を植え付けたところ、全身性の細菌感染はなく、パイエル板組織内でのみで移植した細菌が検出されたことから、ほ乳類は特定の細菌群をパイエル板に共生させる仕組みを持っているようです。
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