2010年4月10日
Chapter 285 人間とチンパンジーを分けた遺伝子の変異

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 人間に最も近い生物とされるチンパンジーのDNAはすでに解読されていて、驚いたことに99%が人間と同一であることがわかっています。つまり、人間固有の高度な能力はDNAレベルではわずか1%の領域に凝縮されていることになります。人間とチンパンジーが共通の祖先から分岐し、600万年が経過していますが、この600万年の間に1%に相当する領域にゲノムに変化が生じ現在の人間を生み出しました。この1%のゲノムを詳細に調べることによって、人間がチンパンジーと一線を画する高度な能力を持っている理由やメカニズムなどにアプローチすることが可能です。

 人間とチンパンジーの遺伝子を比較すると、大きな違いのある領域が200箇所以上見つかります。その中でも最も大きな違いを持つ配列に着目し、Human Accelerated Region 1 (HAR1) と名付けました。HAR1は人間とチンパンジーの他、その時点で遺伝子が解読されていた全ての動物が利用している遺伝情報であり、大脳皮質と言われる脳の表面構造の形成に関わっているらしいことがわかりました。

 HAR1の異常は滑脳症という先天的な脳の異常と関係があります。滑脳症は大脳の表面にしわができなくなる病気で、大脳皮質の表面積が減少し、統合失調症の発症に関わっているほか、滑脳症が原因で死に至ることもあります。つまり、受精卵から脳が形成される段階でHAR1は脳の表面積を著しく広くすることに関わっていて、チンパンジーと進化上分岐した後に人間だけがHAR1の情報に大きな変化が生じ、その結果、偶然、HAR1の持つ機能の増強が起きて人間の脳はしわしわになってしまいました。そのように脳の表面積が増えたため、より多くの情報の記憶や処理ができるようになり、知能が発達しチンパンジーと人間の違いにつながったものと推定されています。

 ただ、人間とチンパンジーの違いはHAR1だけで生じているわけではなく、HAR2という遺伝子は手の関節と親指での遺伝子活性化に関わっていて、この変化によって手先が器用になって道具などを巧みに操れるようになったこともチンパンジーと人間を分けたきっかけの一つであることを示唆しています。
このように、人間とチンパンジーの違いは様々な偶然に変化によってもたらされているらしいことが次第にわかってきました。
が示されています。

ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ

▼新型インフルエンザ、水際対策の効果なし

 日中英の国際チームがまとめたところによると、新型インフルエンザ発生時に、入国時検査の強化など各国が実施した水際対策には効果がなかったと判定されました。これは、アジア、欧州、北米、南米、豪州、中東の26の国について流行開始が遅れを統計的に調査した結果です。

▼ 痛み「さする」と効果 無意識の動作で神経修復

 打撲したり骨折したりした場合に痛む場所を「さする」という動作には、傷ついた神経回路を修復する効果があるとの研究結果を、群馬大大学院の研究者らが発見しました。さする行為には、神経再生を促そうという無意識な意味が込められている可能性があります。

 この研究では神経細胞にあって熱を感じるセンサーの役割を果たすタンパク質TRPV2に注目し、マウスやニワトリの細胞を使った実験で、TRPV2は神経の突起を長く延ばす作用があることを発見しました。そこで、「さする」行為と同様の刺激を細胞に与えるため、TRPV2がある人間の神経細胞を培養した膜に物理的な刺激を与えると、TRPV2が刺激を受け止めるセンサーの役割を果たして細胞が刺激に反応し、神経細胞の特記を延ばして再生を促進することが確認されました。

▼「はやぶさ」、イオンエンジンの連続運転を完了

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2010年3月29日に発表したところによると、今年6月に地球への帰還を予定している小惑星探査機「はやぶさ」について、探査機を地球へ向かう軌道へ載せるために2009年2月から続けてきたイオンエンジンの連続運転(第2期軌道変換)を終了し、地球の中心から約2万kmの位置を通過する軌道へ誘導することに成功したようです。

 現在「はやぶさ」は、地球から約2,700万kmの距離に位置しており、今後数回にわたる軌道修正を行い、サンプルを収納したカプセルが正確に地球大気圏内に再突入する軌道へと「はやぶさ」を精密に誘導することになっています。

▼公転周期がたった5分の連星系

 連星系とは二つの恒星がお互いの共通重心を公転している星のことですが、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者らは非常に密度の高い2つの星が、1周わずか5.4分で公転している連星系をかに座で発見しました。この周回速度は確認されている連星系の中では最速で、その移動速度は秒速500キロメートルであると推定されています。で移動していることになる。「かに座HM(RX J0806.3+1527、J0806)」と名付けられた連星系を構成する星はどちらも白色矮星です。白色矮星とは太陽と同程度の質量の星が超新星爆発することなく衰えていった成れの果ての姿です。互いの距離は約8万キロメートルと見積もられ、この距離は地球の直径の8倍程度しかなく、恒星間の距離はこれまで発見された天体の中で最短です。

 二つの天体は距離が次第に近づいているものと考えられています。白色矮星の連星系では理論的に1週3分が限界と思われますので、やがては合体して超新星大爆発を引き起こすことになります。


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バックナンバー
   
Chapter 284 日本の科学研究ビッグプロジェクト 
Chapter 283 すぐそこにあった水惑星 
Chapter 282 高速増殖炉「もんじゅ」とは? 
Chapter 281 宇宙の話題盛り合わせ  
Chapter 280 ウェルナー症候群とウェルナーヘリカーゼ   
Chapter 279 レアアースに頼らず生物多様性を守る日本で開発された技術  
Chapter 278 ツタンカーメンの死因
Chapter 277 最近の人工衛星の話題 
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Chapter 275 マイクロキメリズム 
Chapter 274 生命科学に関する最新の話題を盛り合わせ
Chapter 273 レスベラトロール  
Chapter 272 最近発見された生物  
Chapter 271 2010年はリンの貴重さに思いをはせる年にしましょう  
Chapter 270 ヴォイニッチの科学書で振り返る2009年科学の話題 後編  
Chapter 269 ヴォイニッチの科学書で振り返る2009年科学の話題 前編  
Chapter 268 臭わない病気、聞こえない病気に関する最新情報  
Chapter 267 プランクトンが住みにくくなる北極海  
Chapter 266 宇宙でがんばっている探査機たちに思いをはせる  
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Chapter-264 軌道エレベーターと宇宙太陽光発電 
Chapter-263 最近耳にしなくなったオゾンホールの現状と地球温暖化との関係
Chapter-262 金平糖のサイエンス 
Chapter-261 30分でわかるノーベル賞2009  
Chapter-260 リチウムイオン電池
Chapter-259 iPS細胞の応用研究
Chapter-258 月での水の存在
Chapter-257 早起き遺伝子と恐がり遺伝子
Chapter-256 グラフェン
Chapter-255 地球温暖化とちょこっと発電 
Chapter-254 水素から電子を取り出す新しい触媒の発見 
Chapter-253 水にも構造がある 
Chapter-252 食べものと体内時計の関係
Chapter-251 金縛りについて
Chapter-250 国際宇宙ステーション日本実験施設きぼう  
Chapter-249 脳神経科学の話題  
特別番組 山口県立山口図書館 ちょこっとサイエンス講座「宇宙人はなぜそのヘンを歩いていないのか?」 
Chapter-248 サリドマイドの生化学 
Chapter-247 太陽系外惑星探査の歴史と現状 
Chapter-246 氷核活性細菌
Chapter-245 一卵性双生児の最新科学 
Chapter-244 ダークマターとダークエナジー
Chapter-243 フローティングタッチディスプレイ
Chapter-242 トランスジェニックコモンマーモセット
Chapter-241 食感とおいしさの関係
Chapter-240 獲得形質の遺伝に似た現象
Chapter-239 マルチバースと人間原理


>> 「Mowton(放送終了)」はこちら

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科学コミュニケーター 中西貴之(メール
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ナビゲーター 中西貴之 obio@c-radio.net
 1965年生まれ
 島生まれの島育ち
 応用微生物学専攻
 現在化学メーカーの研究所勤務
 所属学会 日本質量分析学会 他
 日本科学技術ジャーナリスト会議会員

ナビゲーター BJ
 インターネット放送局くりらじ局長

 


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