2010年4月17日
Chapter 286 宇宙帆船「イカロス」間もなく打ち上げ
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日本のJAXAは2010年5月に「イカロス」という宇宙探査機を打ち上げます。この「イカロス」はかつてアニメで宇宙海賊が乗っていたあの宇宙帆船の実証機なのです。宇宙帆船とは非常に薄い膜でできた帆を広げ、太陽光の光圧力を受けて進む宇宙船です。
「イカロス」の帆は、差し渡し20メートルの正方形で、厚さは0.0075mmのポリイミド樹脂という材質でできています。膜には観測装置などに電力を供給する薄膜太陽電池や方向転換などに使用する機器、観測用のセンサーも貼り付けられているのがこの帆の特徴です。また、動力源としてイオンエンジンも搭載しており、帆で発電した電力を使ってイオンエンジンを駆動することもできます。
ソーラーセイルと呼ばれる発電する帆を搭載した「イカロス」で実験するテーマは4つあり
・ソーラーセイルの構造と展開に関する技術の確立
・ソーラーセイルに貼り付けた薄膜太陽電池の発電性能に関するデータ収集
・光の圧力によって加速が可能であることの証明と関連データの取得
・ソーラーセイルによる航行技術の確立
この他に、太陽風の観測装置と、宇宙空間の地理の観測装置が搭載されていますので、太陽風や太陽塵の観測もあわせて行います。
ソーラーセイルを搭載した宇宙帆船のアイディア自体は古くからあって、17世紀にケプラーが考え出したとも言われています。光に圧力があることが確認されたのが19世紀終わり頃で、公式に科学者が宇宙帆船のアイディアを発表したのは1919年のことでした。ただ、光の圧力は非常に弱いので、数十メートル級の帆を宇宙空間で展開しなければ、推進力としては有効にならず、帆の材料が存在しなかったため理論の段階を抜け出すことができませんでした。ポリイミドは熱に強く、破れにくく、化学反応を起こしにくい宇通材料として優れた物質です。
2010年に打ち上げられるのは20メートル級の実証機ですが、ここで得られたデータを元に50メートル級の帆を持つ大型探査機を開発して、2010年代中頃には木星探査に挑む計画もあります。この計画では、木製そのものの観測の他、周辺の小惑星帯の探査、そして、赤外線センサーを搭載してCOBEやWMAPが観測した宇宙背景放射を太陽の影響の少ない木星軌道周辺から観測することによって、宇宙誕生直後の様子を調べる計画まであります。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼新しい本の紹介もかねて再生について
2010年3月30日に技術評論社の知りたいサイエンスシリーズから「なぜ、体はひとりでに治るのか ―健康を保つ自然治癒の科学―」という本を出しました。この本で私が言いたかったのは、組織の再生や自然治癒の視点から見た、世の中にはすっごい生き物がいるんだぞ、ってことです。
人間での組織再生・自然治癒はたとえば、けがをした傷口が自然にふさがるとか、出血をしても血液がひとりでに補充されるとか、骨折が自然に治るとか、アキレス腱が切れても自然に治るとか、こういったことは自分自身や身近な人の体験として知っている人も多いことと思います
ところが、動物界一般を見渡すと、人間を超える自然治癒能力を持っている動物は珍しくないのです。たとえばイモリやサンショウウオ、ウーパールーパーのような有尾両生類は手や足を切断されても再生します。また、プラナリアと呼ばれる目や手も足もない小さな生物は非常に強力な再生能力を持っていて、たとえばプラナリアを3つに切断すると、それぞれの断片が1匹のプラナリアを再生し、合計で3匹のプラナリアになります。つまり、頭だった細胞の固まりから内臓もしっぽも作ることができるし、内臓だった細胞から皮膚や目を作ることができる、そんなすごい能力を持っていると言うことです。
プラナリアは脳があり、そこから全身に伸びる神経系を持つ高等な生物です。つぶらな瞳からはきちんと視神経が伸びて脳と接続しています。消化管も同様に充実していて、筋肉細胞で蠕動運動をします。ただ、消化管は充実しすぎて3系統もあります。ただし、口はおなかにあります。もともと寄生虫の仲間に分類される生物なので、体節などはなく三角形の頭以外はまさに寄生虫のようなシンプルな外見をしていますが、体のくびれがないことは人間でも珍しくないことです。このように、生物として重要な点は人間と同様であるにもかかわらず驚くべき再生能力を持っている点が研究者にとっては魅力です。
プラナリアの再生能力は必然です。プラナリアは有性生殖と無性生殖の両方で増えることができますが、無性生殖で交配せずに増えるときには口の部分で体が前後に分断され、それぞれが新たなプラナリアの個体となります。つまり、自分で自分の体を切断して個体数を増やすのです。ちなみに、有性生殖は食料が豊富な状態で行われ、卵巣と精巣の両方を備えた雌雄同体が他の個体との交配によって子世代を生み出します。このような仕組みですので、プラナリアは不死身です。細胞の一個一個についてみると老化は起き、新陳代謝はあるのですが個体としてのプラナリアは、放射線や有毒物質にさらされて死んでしまわない限り生き続けます。
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