2010年3月6日
Chapter 280 ウェルナー症候群とウェルナーヘリカーゼ
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ウェルナー症候群は1904年にドイツの医師ウェルナーによって初めて報告された疾患です。10〜40歳時に出現する老人様顔貌、白髪、小さな口や尖った鼻に象徴される鳥様顔貌や白内障、低身長症、が特徴的な常染色体性劣性遺伝疾患です。皮膚の萎縮、硬化または潰瘍形成も認められます。いとこ婚などの近親結婚由来が多く、原因遺伝子は第8染色体短腕にあるDNAヘリカーゼの異常であると確認されています。この病気の患者数は世界で数千人と推定されていますが、現時点でその7割を日本人患者が占めています。平均寿命は50歳前後で主な死因は悪性腫瘍,糖尿病の増悪や脳・冠動脈の硬化とされています。
普段、DNAは2重らせん構造をしていますが、細胞が分裂する時はDNAヘリカーゼによってDNAがいったん、1本ずつにほどかれ、それぞれがコピーされます。奈良先端科学技術大学院大情報科学研究科の研究チームがDNAヘリカーゼとウェルナー症候群の関係を解明するため、健康な人のウェルナーへリカーゼがDNAをほどきつつある時の詳細な構造をX線結晶構造解析という手法を用いて明らかにすることに成功しました。
この酵素の突き出した構造は、「DNA巻き戻しナイフ」と命名され、ちょうどナイフでリンゴの皮をむくように回転しながらDNAを巻き戻しつつ1本ずつにほぐしていることがわかりました。ウェルナーへリカーゼは、構造的に解きほぐすことが難しいと思われていた染色体末端のテロメアもときほぐすことができる点が注目されていましたが、その働きの謎がこのDNAナイフにあったことが判明したということです。
テロメアは細胞の寿命を調節している重要な部位で、ウェルナー症候群との関連も大きいと推定されています。今回見つかったウェルナータンパク質のDNA巻き戻しナイフは、染色体の複製時にテロメアなどの複雑なDNAを正しくほどくための精巧な道具として用いられていると思われます。そして、テロメアDNAのときほぐしを助けることによって、早老症の予防に重要な役割を果たしているようです。つまり、ウェルナー症候群では、ウェルナーへリカーゼがうまく機能しないのでテロメアの長さの欠落を招きやすく、体の老化が早く進んでしまうようです。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼地下の様子をリアルタイムで観察する技術の開発に着手
アメリカ国防総省が地球を透視するプロジェクトを立ち上げようとしています。このプロジェクトでは地球の物理特性や化学特性を地下5キロメートルまで表示できるリアルタイム3Dマップのシステムを作ろうとするものです。
地球の大きさからすると深さ5キロメートルというのは、地面のほんのわずかな範囲にしか過ぎませんが、地下で何が起きているのかについての研究はほとんど行われていないため、センサーで地表下の活動の変化を検知し、数学的アルゴリズムでそれを解析することは、地震予知、噴火予測などにとって有用なものとなるはずです。
▼宇宙の年齢が従来の説よりも2000万年延びました
NASAのウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(WMAP)が観測を開始した2001年から7年間のデータを分析した最新の解析結果では宇宙の年齢は137億5000万年、プラスマイナス1億1000万年という結論に達し、宇宙の年齢は2000万年伸び、誤差は1000万年小さくなりました。
宇宙の年齢が正確に解明されると、暗黒物質やダークエナジーの解析に用いる計算式のパラメーターにより正確な値を使用することができるようになるため、これらの宇宙の大きな謎の解明にとって大きな手掛かりとなるはずです。
▼フラーレンで遺伝子導入
炭素原子60個がサッカーボール状の構造を持ったC60フラーレンを遺伝子導入に使用することに、世界で初めて東京大学の研究チームが成功しました。フラーレンによる導入法は、従来の油のボール・リポソームを使った遺伝子導入法に比べ、毒性が低く、安価な利点があります。
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