2010年3月27日
Chapter 283 すぐそこにあった水惑星
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アメリカ、マサチューセッツ州にあるハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターの研究者らが水惑星を地球からわずか40光年の位置に発見したと発表しました。地球は表面積の7割が海ですので、しばしば水の惑星とたとえられますが、今回発表された惑星は地球よりももっと水惑星といえるものです。
この惑星は、トランジットという惑星が恒星の前を横切ると星の光の一部を一時的にさえぎるために見かけの明るさが周期的に暗くなる現象によって発見されました。この方法の利点のひとつは明るさがどの程度変化するかを測定することによって、星の見た目の大きさの何パーセントを遮ったかを計算することができ、惑星の相対的な大きさを知ることができる点です。
恒星GJ1214は1.6日周期で明るさが1.3パーセント減少することがわかりました。つまり、惑星がGJ1214の周りを公転周期1.6日で回っているということです。GJ1214の半径は太陽半径の21パーセント、惑星の半径は地球の半径の2.7倍と見積もられました。また、この惑星は公転によって中心の星を揺り動かしているため、それにともなう光の波長の変化(ドップラー効果)を測定することによって惑星が星を揺り動かす力の程度、つまり、惑星の重さを推定でき、惑星の質量は地球の6.6倍で密度は1立方センチあたり1.9
gと推定されました。地球は岩石惑星ですので、平均密度は5.5g/cm3あります。水の密度は水の密度は1g/cm3ですので、発見された惑星の密度は水よりは大きく岩よりは小さい、つまり、水と岩の混合物でできているはずです。さらに、惑星密度が1.9g/cm3であることから計算すると、質量の約50%が水であると思われます。なお、地球における水の質量の占める割合は0.06パーセントです。
質量で50%といえば、体積で言えばさらに割合は大きくなり、おそらくこの惑星は地球と同程度の大きさ比率でできた鉄とニッケルのコアに、薄いマントル層が形成され、地球でマントルと地殻に相当する部分はすべて水なのではないかと推定されます。公転周期が短いことから計算して、この惑星は恒星の近くをまわっているはずで、表面温度は190度程度ありそうです。したがって、この惑星の水は液体で、大量の水蒸気が発生し、大気の主成分であるかもしれません。この惑星については、今後さらなる観測が行われる予定になっています。
ちょきりこきりヴォイニッチ
今日使える科学の小ネタ
▼記憶を外部から読み出す
過去のことを思い出すという行動は、脳の中に記録された過去の情報を探して再生すると言うことです。記憶や学習は海馬で行われると考えられています。
私たちは海馬の情報を何らかの手続きで呼び出しているようなのですが、海馬に記憶が収納されているなら、外部からその記憶を読み出すことも可能かもしれません。ロンドン大学で画像解析を使って脳の活動を研究している研究者らは脳の記憶を装置を使って読み出す研究を行っています。
今回の実験では、ボランティア10人に3種類の7秒の長さの短い映像をせました。映像の内容は、女性がハンドバッグから封書を取り出してポストに投函するものや、飲み終えたコーヒーカップを捨てるものなどです。このような映像を見て作り出された記憶はエピソード記憶と呼ばれる種類の記憶です。エピソード記憶は日本語では出来事記憶とも呼ばれます。これは生活の中での出来事を丸ごと記憶することで、時間、空間、感情などが一つのパッケージとして記憶され、いわゆる思い出もこれに相当します。事故などで脳損傷したことが原因となる健忘では損傷時期に近い出来事の記憶ほど失われやすいことから、エピソード記憶は時間軸に沿って記録されていると推定されています。
実験協力者に映像を見てもらった後、その映像を思い出す最中の脳の活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像)で読み出しました。fMRIで映像を思い出している際に、脳の血液の流れを記録し、そこから神経細胞の活動を計算によって推定し、そのパターンを分析しました。その結果、45%の確率でどの映像を思い出しているのかを当てることができたと言うことです。見せた映像は3種類ですので、確率的には33%ですが、実験結果は統計上意味のある違いでそれを上回っていたことになります。
ただ、fMRIを含め現在の装置は神経細胞のシナプスと呼ばれる記憶に関する微細な部分の変化を追うことはできず、非常におおざっぱに観察しているので今すぐに脳から詳細な記憶データを取り出すことはできませんが、近い将来、それも可能になるかもしれません。
▼雌雄モザイク研究の進展
雌雄モザイクというのは、1匹の生物の中に雄の部分と雌の部分が共存している状態のことです。昆虫では比較的高い頻度で雌雄モザイクが発生することが知られています。原因は受精卵からの発生や成長の過程で特定の箇所の細胞の性質が逆転してしまうケースや、雄ホルモン、雌ホルモンに対する感受性が局所的に異常に変化することによるのではないかと推定されています。
人間の場合、染色体レベルで男女が決定され、それを実際に体のレベルで実行しているのは性ホルモンです。雌雄モザイクが多く発生する昆虫での性ホルモンの存在にはいろいろ説があるのですが、教科書的には昆虫は性ホルモンが無く、1個1個の細胞で雄雌が決定されるというのが通説です。人間のような脊椎動物の性ホルモンは精巣や卵巣の生殖腺で分泌されて全身に指令が行き渡りますので
、細胞はその指令に従っているだけで細胞自身に雄になろうとか雌になろうとか言う意志はありません。
ところが、脊椎動物の中でも鳥は雌雄モザイクの発生頻度が高いことも知られていて、1万分の1程度の昆虫並みの確率で雌雄モザイクが起きているようです。ニワトリでは昆虫の雌雄モザイクそっくりの体の左右で性別の違うニワトリが生まれることがあります。そのようなニワトリの研究から、ニワトリでは、ほ乳類のような性ホルモンではなく、昆虫のような細胞レベルで性別が決定されている可能性が出てきました。ホルモンは、生殖腺のような臓器細胞で作られ、血液と共に全身を移動して、遠く離れた細胞で作用します。体の右半分の血液と左半分の血液でホルモンの種類が異なることは考えにくいので、細胞が曝されるホルモンは共通であるにもかかわらず、場所によって性別の違いが現れる仕組みがあるはずでしたが、どういう仕組みかについては結論が出ていませんでした。エジンバラ大学の研究者らによる「鳥の性別決定における革命」と題された「Nature」2010年3月11日号の記事によれば、ニワトリは昆虫のように細胞レベルで雌雄を決定しているらしいというのです。
哺乳類の場合、ホルモンが圧倒的な支配力を持っていますので、雌の染色体を持つ細胞であっても、
何らかの理由で男性ホルモンに多くさらされ、女性ホルモンの影響をあまり受けることがなかった場合、雄として成長していきますし、その逆の場合も知られています。このようなほ乳類のホルモンによる性決定は脊椎動物の共通の性質と思われていました。雌雄モザイクのニワトリでは染色体の異常などは見つからず、細胞レベルの性別決定は細胞の持っている染色体と完全に一致していたと言うことです。つまり、ニワトリの性染色体で言えばZZ染色体を持った細胞は必ず雄になって、ZW染色体を持った細胞は必ず雌になっていた、細胞が自分の持っている情報に素直に対応していたと言うことになります。ニワトリにも性ホルモンはありますが、その指令には従っていないことがわかったのです。
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