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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■翔泳社”ポッドキャスティング入門”でオススメ番組として紹介されました。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] |
Chapter-104 株式会社三菱化学生命科学研究所の研究チームが冬眠に連動して変動する新たな因子をシマリスを用いた研究の過程で発見し、冬眠特異的タンパク質を略してHPと名付けました。HPは脳によって調整されている冬眠リズムによってその量が制御され、血液中から脳内に移行することによってホルモンとして働き、冬眠を司っていることを発見しました。カルシウムイオンは細胞の内外を行き来することによって筋肉の収縮や弛緩を制御していますが、冬眠している動物の心筋、つまり心臓を形づくり脈動を行っている組織において、カルシウムイオンの挙動が覚醒状態とは大きく変化していることがわかりました。冬眠のメカニズムを解明しようとする試みは世界中の多くの研究者らによって行われていましたが、今回日本の研究者らが冬眠のメカニズムによりアプローチできたのはこの心筋におけるカルシウムイオンの変動に着目したからであると言われています。 従来、冬眠のメカニズムを解明する標準的な手法として、冬眠していないときと冬眠中で発現量に違いのある遺伝子を探すという方法が採用されていました。しかし、この方法では、その遺伝子の変化によって冬眠に入ったのか、それとも冬眠状態に入って、体温が低下したり、血液の循環が低下した結果その遺伝子の発現に変化が生じたのかを区別することができないため、遺伝子からのアプローチで冬眠のメカニズムを解明しようとする試みは未だ成功していません。では、動物の状態を観察する方向から検討を行っているチームの成果はどうかと言えば、こちらは冬眠が1年に1回しか起きない現象であるため、実験や実験結果の検証に何年もの時間を要する点で研究が困難で、しかも、冬眠する動物は人工繁殖に成功しておらず、野生から捕まえてこなければならないため、血統に違いによるデータのばらつきなどが一層研究を困難にしてしまいます。 三菱化学の研究者らは遺伝子や動物の生態ではなく、心筋細胞とカルシウムの関係という非常に単純化された系が冬眠に関わっていることを見いだすことができたため、研究が著しく進展しました。このカルシウムイオンの変動は体温低下とは関係なく起きる、つまり、冬眠による体温低下の二次現象ではなく冬眠に先立って起こる現象であることが確認できました。また、この変化には季節のリズムがあり、冬眠する時期に限定して変動することもわかりました。つまり、心筋における変化は冬眠開始前に始まり、冬眠中の酸素不足、エネルギー不足から心臓を守る作用を担っていると考えられたと言うことです。また、冬眠のリズムは体内で作られる年周リズムに従っており、そのリズムは個体同士では長い時間冬眠する個体、短い冬眠しかしない個体などバリエーションがありましたが、一つの個体は一生同じサイクルで冬眠することもわかりました。 冬眠に対応して変化するタンパク質HPですが、血液中の濃度を測定したところ、冬眠に入る直前から濃度が低下し、冬眠している間はずっと低い濃度のまま保たれ、冬眠が冷める直前から濃度が上昇することがわかりました。HPは肝臓で作られて血液中に放出されていることもわかり、次の段階として、HPは体のどの臓器に作用して冬眠を制御しているのかについて検討を加えました。研究者らその臓器は脳であろうと予測をたて、脳の中のHP濃度を測定したところ、血液中とはちょうど逆で、冬眠に入る直前から脳の中のHPが増加し、冬眠終了前に急速に濃度が低下していることがわかり、どうやら脳にHPが作用することによって冬眠が開始・終了しているようでした。また、HPが脳の中に大量にあるときには体温が数度に低下しても実験に使ったシマリスは死にませんでしたが、脳の中にHPが内情対で対オウンが低下するとシマリスは死亡しました。これらの実験結果からHPは冬眠を制御するホルモンであることが世界で初めてわかりました。 以上のことから、冬眠のメカニズムを予測すると、脳で1年間の寒暖のリズムが生み出され、その情報によって肝臓でのHPの生産を制御し、同時にHPは脳内に取り込まれ脳に作用することによって、全身を冬眠に入れる状態に変化させているのではないかと考えられます。 冬眠の研究が医療の現場において感染症やガン、虚血性の疾患の治療や予防に役立てる方策があるのではないかという点が現在非常に興味を持たれています。 1997年に米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)による共同プロジェクト打ち上げられた土星探査機「カッシーニ」が衛星「エンケラドス」で氷の粒子や水蒸気から成る間欠泉のようなものを確認しました。液体の水の存在はこの衛星に生命が存在する可能性を示唆しています。研究者らはこの氷の粒子と水蒸気は地表近くの液体の水が由来であると考えています。この間欠泉の存在は、現在まで知られている地球以外の天体における液体の水の存在を示唆する証拠の中で最も有力なものだと言えます。 [唾液を分析してストレスを評価] 独立行政法人産業技術総合研究所は唾液でストレスを簡単に測定する装置を開発したと発表しました。現在、ストレスを評価するには問診や心理テストなどが一般的ですが、より客観的な評価を行うために血液や尿中のストレス関連物質を定量する方法などが研究されています。しかし、この方法では、採血をすることそのものが患者にストレスを与えてしまったり、測定に要する時間が長いなどの欠点がありました。唾液ならばそのようなストレス無く採取することができます。 今回開発されたのははマイクロ電気泳動チップを用いた装置で、測定対象物質は、唾液中のストレス関連物質であるコルチゾールおよび分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)です。レーザー励起蛍光型測定装置の高感度化に加え、高感度測定に適したチップデザイン設計、新しい試料導入法の開発、ならびに高度な分離分析法を組み合わせることで、実際の唾液の測定の実現に成功しました。 鳥が恐竜の祖先であるという考え方は多くの研究者によって認められていますが、恐竜が始祖鳥になり、そして現在の鳥類になったというような単純な進化の過程ではないようです。ネイチャー2006年3月16日号に羽毛恐竜の仲間であるにもかかわらず羽毛のない恐竜が見つかったという論文が掲載されました。化石の年代はジュラ紀後期の一億五千万年前。ジュラベナトル・スターキイ」と名付けられたこの羽毛恐竜の全長は七五センチでした。これは羽毛があったことが確認されている中華竜鳥と同じ仲間ですが年代的にはより古いものです。ただ、今回発見されたのは幼い個体で成長すれば羽毛が生えてくるという説を唱える研究者もいます。 中国では白亜紀に生息した鳥の祖先と思われる恐竜の化石が多数見つかっていて、これらには前足・後ろ足に翼を持っているものも多く見つかっています。ただ、これらはいずれも恐竜と鳥類の中間点であると思われている始祖鳥よりはかなり年代的に新しいものです。また、これらの鳥に近い恐竜が生きていたのと同じ時代にすでにヤノルニスなどとよばれる現在の鳥とほぼ同じ鳥が飛んでいたこともわかっています。始祖鳥よりもさらに鳥に近づいた恐竜の化石がより古い地層から発見されれば進化の系統図もより正確に作成できるものと思われますが、多くの化石が発見されたが故に、かえって鳥と恐竜の境界をあいまいにしています。 [エンディング・他局の科学番組放送予定] |