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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■翔泳社”ポッドキャスティング入門”でオススメ番組として紹介されました。 [バックナンバー] [この番組の担当は・・・]
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Chapter-109 独立行政法人理化学研究所が発行してる「理研ニュース」の2006年5月号に「究極の理論『超ひも理論』を完成させる」という記事が掲載されています。この中で「サイクリック宇宙論」と呼ばれる宇宙の誕生と進化はどのように行われたのかという難問へアプローチする理論が紹介されています。サイクリック宇宙論は仁科加速器研究センター川合光主任研究員、京都大学二宮正夫教授、福間将文助教授によって提案されている理論で、この理論に従えば、私たちが暮らしているこの宇宙は30〜50回目の宇宙なのだそうです。50回目の宇宙とはいったいどういう事なのでしょうか。 30〜50という数字は超ひも理論と呼ばれる、自然界のあらゆる力学現象を説明する究極理論を用いて宇宙のエネルギーの合計量から計算によって導かれたものですが、宇宙このように何度も繰り返されているというサイクリック宇宙論について川合主任研究員の著書「はじめての〈超ひも理論〉・講談社現代新書」から引用すると「まだ社会的に認められた確固たる理論とはなっていない」とのことですが、宇宙の誕生に関して、現在の主流となっているインフレーション宇宙論の不自然な部分を巧みに回避し、宇宙の始まりを非常に美しく説明できる理論であると思われます。インフレーションを伴わないビッグバン宇宙から予測される宇宙は私たちが観測している宇宙ほどの大きさになることはできそうにありません。逆に、ビッグバン宇宙を現在の大きさまで拡張するために組み込まれたのが、宇宙が指数的に急激な拡大をしたとするインフレーションです。サイクリック宇宙論ならばインフレーションが起きなくても現在の大きさの宇宙を作り出すことができます。 サイクリック宇宙論において、宇宙が繰り返されるというからには、それぞれの宇宙に始まりと終わりがなければなりませんがサイクリック宇宙論では、あるひとつの宇宙はビッグバンで始まり、ビッグクランチで終わると説明しています。ビッグクランチとはビッグバンとは逆向きの現象で、宇宙が一点に向かって急速に温度を上げながら収縮していくことです。ビッグクランチが訪れると光さえも通り抜けることができないほど宇宙の密度が上昇し、電子は原子核から離れて自由に飛び回り、陽子と中性子もクォークに分解されてしまいます。さらに宇宙が収縮してクォーク同士の衝突が激しくなるとクォークが溶け始め、やがてクォークも消滅してしまいます。川合主任研究員の計算によると、仮にこの宇宙がビッグクランチを迎えるとすると宇宙が1メートル程度の大きさにまで収縮したときにクォークの消滅が起きると思われます。 つまり、生まれたての宇宙は私たちの目で見えないほど小さな状態からビッグバンで膨張を始め、ある程度の段階で今度は収縮に転じ、やがて目に見えない究極の小ささまで収縮するビッグクランチで終わるということです。ところがビッグクランチを迎えた宇宙はそのまま消えてなくなるのではなく、再びビッグバンを迎えて膨張を開始します。ところがやがて、再度収縮し、ビッグクランチとそれに続くビッグバンを迎えるとされます。このようにビッグクランチに引き続きビッグバンが起きる宇宙のことを「ハゲドン宇宙」といいます。 サイクリック宇宙論によるとビッグクランチを迎えた宇宙はそのままの勢いで跳ね返るように、次のビッグバンを迎え膨張を始めるとされています。その理由を説明します。ビッグクランチでクォークが消えてしまった宇宙はさらに収縮を続けます。ただし、大きさの概念には限界があって究極の短さをプランク長さと言い、超ひも理論では10のマイナス33乗とされています。これよりも短い長さというのは意味のないものなのです。けれど、ビッグクランチによって宇宙はどんどん縮んでそのままではプランク長さより小さくなるように見えます。ここで、プランク長さより短い長さはその逆数に比例した長さになる、という決まりがあります。 わかりやすく、現在の宇宙の大きさを10、プランク長さを1と仮定します。10の大きさの宇宙は9、8、と小さくなってやがてプランク長さ1になります。さらに宇宙が縮んで0.9になったとすると、0.9の逆数は1.1です。さらにちいさくなってプランク長さの0.8になると、その逆数は1.25。さらに小さくなってプランク長さの1/10まで宇宙が縮むと宇宙の大きさはその逆数の10となって元の大きさに戻ってしまいました。このように考えると宇宙の終わりだと思われていたビッグクランチはプランク長さを境にそのまま宇宙の始まりにつながっていると言うことが自然に導き出されます。 宇宙の誕生を説明する理論として現在広く受け入れられているインフレーション宇宙論は、無から宇宙が誕生した直後にインフレーションと呼ばれる急速な膨張の段階を経て火の玉宇宙、すなわちビッグバンを迎えたという理論です。現在観測されている現象をいまく説明することができる優れた理論ですが、インフレーションの原動力となったインフラトンというのはどういうものなのか、など、いくつか理解できない問題点も含んでいます。ところが、サイクリック宇宙論ならばインフラトンなどというあるのかないのかわからないエネルギー源を持ち出すことなく宇宙の膨張を説明することができます。 サイクリック宇宙論によると、サイクリックな宇宙はビッグバン-ビッグクランチを経験するたびに、次の宇宙へ繰り越すことのできるエネルギー(正確にはエントロピー)を得ます。エネルギーが大きければ大きいほど宇宙はより大きくふくらむことができます。 一番最初の宇宙は量子論的真空とよばれる状態、つまり無の状態で何もないように見えるのだけれど、実はそこにはエネルギーがあり量子力学的観点から仮想された粒子がつまった状態から偶然生まれましたが、この一番最初の宇宙はほとんどエネルギーを持っていないので、ビッグバンの直後あっという間にビッグクランチを迎えたと考えられます。けれどこの時に宇宙はエネルギーを新たに獲得します。ビッグクランチは先ほど話したとおり、ビッグバンにそのまま続きますので宇宙は膨張を始めますが、前回の宇宙でエネルギーが加算されていますので、前回よりも宇宙は大きく膨張することができます。これを繰り返して、宇宙は徐々に大きなエネルギーを持ち大きく膨張していきます。計算の方法については川合主任研究員の著書「はじめての〈超ひも理論〉」を参照していただきたいのですが、私たちの体を構成する元素は36回目の宇宙以降にできはじめました。44回目の宇宙で光が直進することができるようになりこれ以降の宇宙では銀河を形成することが可能になりました。48回目の宇宙は6億光年くらいの大きさまで膨張し、その寿命は4〜5億年でした。私たちの宇宙の一つ前の49回目の宇宙は25億光年くらいの大きさまで膨張し、寿命は30〜40億年でした。太陽が誕生したのが宇宙ができて80億年くらい経過した時でしたので、前の宇宙ではまだ太陽系はできていませんでした。したがって、前の宇宙には人類はいませんでした。そして50回目の宇宙が今私たちが住んでいる宇宙です。現在宇宙が誕生して137億年が経過しています。 では、いまの私たちの宇宙のビッグクランチはどのようになるのでしょうか。宇宙には臨界密度という概念があります。臨界密度は宇宙が最後にどのようになって終わるか、あるいは永遠に続くのかを決定する値で、実際の宇宙の密度と臨界密度の値を比べることによって私たちの今の宇宙が将来どうなるかを予測することができます。サイクリック宇宙論によればこれまでの宇宙は臨界密度よりも宇宙の密度が大きかったために宇宙の物質同士の万有引力が膨張しようとする力に打ち勝って収縮したことになります。では、私たちがいる今の宇宙はどうでしょうか。NASAの人工衛星WMAPの観測結果によると、今の宇宙の密度は臨界密度に非常に近いため、ビッグクランチを迎えることなく終焉を迎えると考えられます。 さて、宇宙がどのようにしてできたかについては、今回紹介したサイクリック宇宙論の他に、現在主流となっているインフレーションの後にビッグバンがあったとする火の玉宇宙論、そして、ブレーンワールド、あるいは現在は否定されていますが、古典的な定常宇宙論などさまざまな理論があり、現在も鋭意研究が進んでいます。ブレーンワールドについては「最新科学おもしろ雑学帖」の5番に「宇宙はブレーンに閉じこめられている!」と題して紹介しています。そして、火の玉宇宙、WMAP、インフレーション理論についても18番、19番、20番で解説していますので書籍をお持ちの方はご一読下さい。 なお、現在の宇宙が50回目という数値については、前提となる値の設定次第で変わってきます。今言えることは、宇宙はサイクリックに発生し、そのたびに大きくなってきたと言うことです。 「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ [エンディング・他局の科学番組放送予定] |