2011年3月12日 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が策定した研究開発のロードマップでは、2030年以降に本格的に電気自動車が導入されることになっています。そこで想定されている電気自動車用バッテリーのエネルギー密度の値は、ガソリン並みの700Wh/kgです。リチウムイオン電池のエネルギー密度の限界は250〜300Wh/kgといわれていますので、ガソリン並みに大きなエネルギー密度は、従来型リチウムイオン電池では実現が難しく、何らかの革新的な次世代リチウムイオン電池の開発が欠かせません。そこで次世代リチウムイオン電池の有望株として注目されているのがリチウム−空気電池です。 正極で反応する物質として空気中の酸素を用いる金属−空気電池では、電池内部には酸素を封入しておらず、大気中の酸素を利用します。このため、理論的に正極の容量が無限となることから大容量電池が可能として注目されています。金属−空気電池は開発の歴史が長いため、すでに一部は実用化されていて、おもに亜鉛−空気電池が、補助器の電源として使用されています。そのエネルギー密度の理論値は、1350Wh/kgもあります。金属リチウム−を使うリチウム−空気電池は米国の研究グループによって1996年に初めて実際に動作する物が発表されましたが、このエネルギー密度の理論値は11,140Wh/kgとなり、金属−空気電池の中で今のところ最も高性能です。 大容量の電池として実用化が最も有望視されているのが有機電解液と水溶性電解液を組み合わせたハイブリッド電解液を用いたリチウム−空気電池です。この新型リチウム−空気電池は電極が浸かっている電解液が固体の電解質膜で仕切られた有機電解液と水溶性電解液の2槽構造になっているのが特徴です。この電池の場合、空気極中の触媒表面において、空気中の酸素と水の間で還元反応が行われて水酸化物イオンを生成しますが、その水酸化物イオンは、完全に水溶性電解液に溶けます。さらに有機電解液と水溶性電解液の間にセパレーターとして、固体電解質膜が使用されていますが、この膜はリチウムイオンのみを通過させる性質があり、水分や電解液に溶け込んだ気体、水酸化物イオン、プロトンイオンなどほかのさまざまなものを通さないため、イオン選択的なセパレーターとしての役割を果たしています。そのため、負極側の有機電解液と正極側の水性電解液の混合を防ぐことができ、かつ電池としても問題なく反応します。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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