2011年3月19日 言語習得のメカニズムを研究する科学者達は、外国語学習に関する研究を古くから行っていますが、主にアメリカにおける移民の英語習得のような第二言語環境でのものが多く、日本のようなそれまで全く触れたことのなかった言語を新たに習得する過程については科学的なデータがほとんどありませんでした。 まず、聞き慣れない英語を聞いて処理している時の脳は、日本語を処理する場合に比べて脳活動が著しく低く、その様子は、言語ではない無意味な音声を処理する時と同様の処理でした。これは、小学生の段階で脳はすでに日本語にチューニングされていることを示唆しています。次に、一般に、言語を司る領域は左半球にあると言われており、実験においてもよく知っている単語の処理では言語を司る左半球の特定の部位が活発に活動していましたが、逆にあまり知らない単語の処理では、右半球の特定の部位が活発に活動することが分かりました。さらに、言語領域としてよく知られているブローカ野においても、なじんでいない英語を聞いているときは右半球のブローカ野に相当する場所が活発に活動していました。 これらの結果は、音声言語処理には左右両半球が関与し、特に語彙を学習して覚えていく初期段階には右半球が重要な役割を担っている可能性を示しています。子どもたちの脳は、未知の言葉を習得する際には、言語を問わず、音のリズム、アクセント、イントネーションなどを頼りに処理していると考えられます。つまり、子ども達が新しい言葉を耳から学ぶ時には、脳ではまず音声の分析が優先的に行われ、それが意味を持つ「言語」へと徐々に移行する可能性が示唆されたということになります。 単語復唱時の脳活動は、音を認識する脳の領域では日本語であるか英語であるか、あるいは、頻繁に聞く単語か滅多に聞かない単語かによって違いがなく、左右半球差も見られませんでした。一方、言語を認識する領域では、たとえ聞き慣れない言葉であっても、日本語処理時の方が英語処理時より脳活動が有意に大きいことが分かりました。この結果は、小学生の段階ですでに脳が日本語の音韻処理にチューニングされており、言語として聞き慣れない英語は言葉ではない音と同様に処理されていると考えられます。 この結果は、音声処理から言語処理の一連の過程において、音の入力のごく初期段階である聴覚野付近では言語の種類によらず音声として処理され、さらに高次な脳機能を担う場所へと処理プロセスが進むにつれて、より特化した「言語」の処理へ移行していくことを示唆しています。 ◇ ◇ ◇ (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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