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ライブ & MP3orREALオンデマンド & ポッドキャスト 世界初の日本語科学情報 PODCAST 番組 科学コミュニケーター 中西貴之(メール) アシスタント BJ
このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。 ■ABCラジオ「おはようパーソナリティ 道上洋三です」特集コーナーで書籍が紹介されました (2006年6月16日) [バックナンバー] [この番組の担当は・・・] [今週の関連書籍] |
Chapter-113 地球上に生命が誕生した始まりに関する最も有力な説は化学進化説と呼ばれるもので、海中で非常に単純な構造の無機物から炭素原子同士が複雑に結合した有機物が生まれ、この有機物どうしがさらに結合してより大きくて複雑な有機物が形成されたという説です。 1953年、当時シカゴ大学の大学院生だったS.L.ミラーによって、後に「ユーリー・ミラーの実験」と呼ばれるようになる画期的な実験が行われました。この実験は原始地球の大気を模したメタン、水素、アンモニアの混合気体に原始地球で活発だったと思われる雷に相当する放電を行ったところ一週間でグリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリンの四種のアミノ酸が生成していることが確認されたというものです。当時、生物の体を構成しているアミノ酸がいとも簡単に作り出されたことは非常に驚くべき結果でした。 この実験結果から、私たち地球上の生命は地球誕生から間もない頃の大気にメタンやアンモニアが含まれていれば雷や太陽からの紫外線でアミノ酸が生まれ、アミノ酸の濃度が上昇することによってアミノ酸同士が結合してやがてタンパク質になったという古典的なメカニズムが提唱されました。 水・メタン・アンモニア しかし、その後の研究で原始地球の大気はこの実験で想定した大気とは全く異なり、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素を主体とする火山ガスに近い成分だったことが最近になってわかり、古典的な生命誕生のメカニズムには疑問も呈されています。 1969年、隕石の中にアミノ酸が含まれていることが発見されました。誕生直後の地球には多数の隕石の落下があったと考えられますので、この発見は隕石によって地球にアミノ酸がもたらされた可能性を示唆しています。 地球の生命は宇宙からやってきたという説をパンスペルミア説と呼びます。 パンスペルミアとは2500年前のギリシアの哲学者アナクサゴラスによって作られた言葉で、アナクサゴラスは地球上のあらゆる生物は宇宙を漂う命の種の組み合わせからできているとしました。現在のパンスペルミア説で命の種に相当するものはアミノ酸重合体のようなタンパク質やそれに近い生体関連物質、あるいは細胞そのものであると考えます。 かつては生命に関連する物質が過酷な宇宙空間を地球まで移動できるはずがないと考えられていました。しかし、日経サイエンス2006年2月号の記事によると最近の研究では火星程度からなら地球へは一年以内で岩石は到達する可能性があること、NASAの人工衛星である長期間暴露装置LDEFを使った実験で、たとえ細胞であっても、わずかに岩石の中にめり込んでいれば、確率は低いながらも生きたまま1年間宇宙空間を旅することができることが確認されたそうです。しかし、実際に微生物が宇宙空間から地球にやってきて、それが進化して人間を含む現在の生物となった、という完全なパンスペルミア説は否定的な意見が多いのも事実です。 現在考えられているパンスペルミア説の発展形として、アミノ酸やRNAの元になった物質は宇宙から供給されたかもしれないが、それが生命として成立したのは地球環境においてだったという、地球オリジン説との中間的な立場に立つ説もあります。 さて、生命誕生のシナリオとして現在有力視されているシナリオは海底熱水噴出孔周辺で最初の生命が発生したというものです。海底熱水噴出孔は現在の地球にも存在し、海水は200気圧、水温は最高で400度にも達する特殊な環境です。ここでは、熱水鉱床と呼ばれる金、銀、銅、亜鉛などの金属鉱床が発達することがわかっていますが、その中に黄鉄鋼と呼ばれる硫黄と鉄からできた鉱物があります。1988年に発表された「表面代謝説」によると、黄鉄鋼の表面ではさまざまな化学反応がおきることがわかりました。たとえば、無機物リン酸の重合によるDNAやRNAの原料であるアミノ酸の生成が確認できています。このメカニズムでタンパク質または核酸が合成され、生命が発生したと考えるのがこの説です。 アメリカの微生物学者C.R.ウーズが、現存する地球上のすべての生物や核酸の配列をもとに、祖先−子孫の関係を調べた結果、すべての生物が一本の系統樹にのることを示しました。現存するすべての生物の共通の祖先をコモノートと呼ぶことを日本人研究者山岸明彦が提唱しました。コモノートは輪ゴムのように両端がつながった環状DNAに遺伝情報を持つ高熱性細菌であると考えられました。つまり、現在のすべての生物の共通の祖先は熱い海の中で誕生した可能性があると言うことです。 地球に近い軌道を持ち、地球に近い大きさで大気もある火星はかつては生命が存在する可能性がある天体の最右翼でしたが、NASAによる調査の結果火星の大地は非常に酸化的であらゆる有機物は分解されてしまうような環境でした。火星に水の海が存在し、地球のように温暖な時期があったという説も唱えられていますが、少なくとも現在の火星においては生命は存在していそうにありません。ただし、私たちが探査することが困難な地底や火山の中などにはまだ可能性は残されています。 しかし、現在では火星よりも生命が存在している可能性が高そうな天体がすでに見つかっています。一つは木星の衛星エウロパです。エウロパは水の氷で表面を覆われた極寒の衛星ですがこの氷の下には液体の水の海があることがボイジャーやガリレオによってすでに確認されています。この液体の海は水深が50キロメートルもあると思われます。また、エウロパは地球の月とほぼ同じ大きさの天体ですが、月とは全く異なり表面にクレーターはほとんどありません。このことはエウロパが非常に活動的であることを示しており、木星の潮汐力によって衛星が加熱されている可能性もあり、エウロパの現在の状態は地球の全球凍結時代と同様に表面は氷で覆われていますが、内部には熱源が存在するかもしれません。もしそうならば、海底には微生物が生息している可能性があります。 二つめは土星の衛星エンケラダスでこちらは探査機カッシーニによって表面の氷の下に液体の水があることが確認されました。エンケラダスは土星の潮汐力を大きく受けており、氷の火山や氷の平原などがあり、これらはいずれも新しく、活発な地質活動があることが確認されています。 かつては、火星の次に可能性が高いと思われていた土星の衛星タイタンですが、タイタンには地球に似た窒素を主成分とする大気はあるものの、液体の水は存在しないため、生物の存在の可能性は低いものと考えられます。しかし、液体のメタンは存在してるのでひょっとする土地旧型とは全く異なる生命が誕生している可能性もありますが、詳細は全くわかっていません。 以上のようにこの宇宙空間における生命の起源について、私たちが知っていることはほとんど無く、35億年前、説によっては27億年前に地球上に微生物が存在した、ということしか確かにわかっていることはありません。 「最新科学おもしろ雑学帖」の関連ページ [エンディング・他局の科学番組放送予定] |