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【ヴォイニッチの科学書《有料版》番組要旨】 かつて安価な元素から高価な金を作り出す錬金術が盛んに研究されましたが、そのような科学は現在では否定されています。ところが、加速器という装置を使うと新たな元素を合成して作り出すことができるのです。ロシアの科学者メンデレーエフが「元素周期表」を提唱したのは1869年のことでしたが、当時、自然界に存在する元素は、原子番号92番のウランまで発見されていました。一方で、93番以降の元素はすべて人工的に合成されたものなのです。元素は原子核中の陽子の数によって定義されます。かつては、プラスに思いっきりチャージしている原子核の中にさらにプラスの陽子を押し込むことなど不可能でしたが、加速器の発明と性能の向上によってムリヤリ原子核の中に陽子を組み込むことが可能になり、新たな元素が次々に作り出されているのです。 原子番号が大きいと言うことは、原子核の中にプラスの電荷を持った陽子がぎゅうぎゅうに詰め込まれていることになって、陽子同士の反発で大きな元素は不安定な巨大な原子核を持つことになります。さらにその中に無理矢理陽子を押し込んで作り出された人工劇名元素はすべて、非常に不安定で1秒の数百分の1の時間しか存在することができません。また、実験で作り出される確率も非常に低いため、理屈ではわかっていてもそれを作り出すことは非常に困難です。 2012年9月27日、理化学研究所は、2004年、2005年にそれぞれ1個ずつの合成に成功していた113番目の元素について、新たに3個目の113番元素(質量数278)の合成を確認したと発表しました。今回の合成成功は、データ不足のために未だ世界的に正式には認められていない113番元素の発見について、その発見が間違いないことをより確証づけるものだということなんです。 この話は2004年までさかのぼります。 新しい元素の合成に成功しても、それがただの1回だけでは世界的には認めてもらえませんので、理化学研究所はさらに実験を続け、2005年に2個目の113番元素の合成に成功しました。また、ロシアの研究チームは113番よりも大きな115番元素がα崩壊という原子核が陽子を放出する現象を使って113番元素を作ることに成功しました。 さらに、新しい大きな元素の合成を証明するには、原子核から陽子が転げ落ちるように崩壊の連鎖反応を起こして、すでに知られているより原子番号の小さな原子に変化することを確認することが重要です。この変化の際に、陽子がこぼれ落ちることによって発生する現象を観測するとで、もともとが陽子何個の元素だったのかを確認することができます。この点についても新たに合成された元素はα崩壊を連続で4回起こして原子番号105のドブニウムになることが確認できました。けれどこれだけでは依然としてデータが不足していて、日本が113番元素の合成に成功したことは国際的には認められていませんでした。 周期表には112もの元素が掲載されているにもかかわらず、それらのすべては欧米によって発見されたものなのです。非欧米圏のサイエンスのリーダーシップを取る日本としてはなんとしても、非欧米圏初の元素を周期表に掲載したいところです。 そのために日本としてはさらなる証拠を積み重ねるべく実験を続け、今回3個目の113番元素の合成に成功し、そのα崩壊の観測で113番元素に間違いないことが確認され、証拠の積み重ねに成功しました。 3個の113番元素を合成するために、2003年9月以来、通算553日の照射日数と1.35×10の20乗個の亜鉛原子(重さにして15.8
mg)を費やしたということです。113番元素についてはロシアとアメリカの研究グループも命名権を主張しています。最終的にどこの国が発見したことになるかは「国際純正および応用化学連合」という国際的な委員会による今後の審議を待たなければなりませんが、最初に合成に成功し、その後も世界で最も多い3個の合成を行っている日本がその命名権を得ることは当然であろうと思われます。 (FeBe! 配信の「ヴォイニッチの科学書」有料版で音声配信並びに、より詳しい配付資料を提供しています。なお、配信開始から一ヶ月を経過しますとバックナンバー扱いとなりますのでご注意下さい。)
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このページはインターネット放送局くりらじが毎週放送している科学情報ネットラジオ番組「ヴォイニッチの科学書」の公式サイトです。放送内容の要旨や補足事項、訂正事項などを掲載しています。
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